夜の街の魔法使い・星を掴む人 23



落ち着いても落ち着かなくても、いつでも好きな時に来るといい。そうプープーヤに言われてラジェルと一緒に店を後にした。まだ宿を決めていないからだ。
ラジェルは道案内役で、そもそもユティが落ち着くまでひっついている予定だ。
それにしても。
「確かに有名な店だと思うけど、俺、ラジェルがいなかったら確実にたどり着けなかった自信がある。何が直ぐ分かるだ」
「いや、直ぐ分かるんだって。ユティははじめてだから分からないだけで、ちょっとでも街に慣れれば分かりやすいんだよ、あの店。ほら、通りによって魔力が違ってただろ。それに、この辺りだったら店の名前を出しても普通に教えてくれるし。ほら、そこの案内板にも乗ってるだろ」
あんな分かりづらい店、と文句を言ったユティにラジェルが通りにある案内倍を指差す。
ここはもう大通りで、案内板には細かく店の名前が書かれてあって・・・エクエクは太文字で分かりやすく書いてあった。
え、こんな大々的に教えていいのか?
「・・・なあ、何で俺、ツィントに絡まれたんだ?」
「ああ、それなあ。エクエクの名前を出した時点で、になるんだ。何が目的が分からないから、名前を出したヤツがいれば片っ端から見張りがつく。大抵は野次馬だからいいんだけど、希に厄介なのがいるからなあ」
「俺、やっかい?」
「恐らく俺の名前も一緒に出したからツィントの中で要注意人物になったんだと思う。その装飾品も含めてな」
「ああ」
なる程。装飾品と言われれば頷くしかない。
あの時は普通に、いつも通りにしていたから確かに目立っただろう。
しかしながら、ラジェルの名も含まれるのが今ひとつユティには分からない。
かなりの偉い人で、恐らくは何か特別な理由があるんだろう。たぶん。おそらく。
うーんと小さく唸りながらラジェルを見上げれば綺麗な微笑みが返ってくる。
「ユティ、宿はどんな感じがいいんだ?ここは工房区と魔道区が混じってるからいろいろなタイプの宿があるぞ」
「長くいる訳じゃないから適当でいいんだけど、そうだなあ。建物が頑丈で受付がしっかりしてたら、後は拘らない」
「・・・襲われる予定でもあるのか?」
「ない。でも、ツィントに絡まれた時にブレスレット駄目にしたから星網を作りたい。だから頑丈な部家と誰も通さない受付が欲しい」
広さはベッドがあれば十分だし、良くを言えば風呂があればいいけど、それは別に構わない。
この街に入って数日経つし、そろそろ星網を作りたいのだ。
ユティにしては当然の言葉だったけど、ラジェルの表情が変わった。
綺麗な微笑みにキラキラした何かが追加されている。
「なあ、ユティ。もし良かったら、是非とも、星網作るの、見学していいか?」
なる程、星網の言葉に反応したのか。
あれもまた面倒な作業で、知っている人は少ないだろうと思う。けど、正直見学して楽しいかどうかと言われればかなり微妙だ。
「別にいいけど・・・退屈だぞ。それに時間もかかるし、作ってる間は会話も無理だけど、いいのか?」
「もちろん!じゃあ、俺のオススメ宿に案内するよ。滞在費は持つって言っただろ。建物も頑丈だし、受付もしっかりしてる。風呂も大きいんだ」
「そんなに立派な宿じゃなくていいぞ。風呂は嬉しいけど、広さは必要ないんだし」
「いいのいいの。経費で落とせるし、これでも俺、高給取りなんだ。頼ってくれていいんだぞ」
笑顔が輝いた。とても嬉しそうに微笑むラジェルにユティまで釣られそうだ。
実際の作業を見たら笑顔も曇りそうだけど、喜んでくれるなら、嬉しい。
ユティの手を引っ張って颯爽と歩くラジェルについて行きながら少しだけ、心のどこかがむずがゆくなる。不思議な気持ちだ。
まだ出会ってそう間もないラジェルを頼りにして、割と、かなり信頼してるなんて。
宿に案内してくれると言うラジェルを疑う気持ちはない。案内された先でどうこうされる心配もしていない。星網を作る作業を、邪魔をされるかも、とも思っていない。
不思議だ。
安心感、とはまた違うユティを納得させるものがラジェルにはあるんだろうか。
考えても分からないけど。


top...back...next