夜の街の魔法使い・星を掴む人 24



ラジェルが選んでくれた宿はやっぱりと言うか、そうだろうなあと言うか、高級な宿だった。
「だから俺、部家は狭くていいって言ったのに」
「部家が狭い所って頑丈じゃないだろ。いいじゃないか、ここ。部家も風呂も大きくて受け付けもしっかりしてるし」
「そりゃまあそうだけど」
案内された宿はがっしりとした頑丈な建物で、受付には警備がいてしっかりしてて、確かにユティの条件ぴったりだ。少々豪華過ぎるけど。
滞在費は全てラジェルが持つと張り切っているから、ここは素直に甘えておくべきか。
ずっとラジェルが持っていたユティの荷物を置いて、まずは着替えることにする。
「そう言えばラジェルはこれからどうするんだ?いや、星網作ってる所は見せるけど、あれ、時間かかるし腹減ったから飯の後にしたいし、そうしたら時間も遅くなるだろ」
朝はこないしずっと夜だけど、人は眠らないと死んでしまう。
一度家に帰るのだろうか、それとも、と荷物を漁って着替えを出していたら近くに座ったラジェルがにっこりと微笑む。
「俺の家、エクエクの上だから近いから大丈夫。それに1日くらいだったら寝なくてもいいし」
「いや、寝ろよ」
寝ないでユティに貼りついているつもりかこの男は。
呆れてからもう一つ思い出す。
「俺は着替えるけど、ラジェルはどうすんだ?つーか、俺に貼りつくにしても用意あるだろ、流石に」
どこまで貼りつくつもりかは知らないけど、今の所はべったりなラジェルだ。
教えると言ったのはユティだし、好きなだけ貼りつけばいいとは思うもののラジェルの生活というものがある。
「え?別に2、3日くらい着替えなくても平気」
荷物から引っ張り出した着替えを椅子の上に置いてラジェルを見ればまた綺麗な微笑みが返ってきて、さらりと、とんでもないことを言う。
この馬鹿。そこまでしてユティに貼りつくつもりか。そもそも仕事も休んでいるだろうし・・・馬鹿には見えないのに、本気の馬鹿だ。
はあ、と溜息を落として、諦めた。これはやっかいな男に貼りつかれたと。
「着替えろ風呂入れ寝ろ。一回家に帰って着替えとかいろいろ用意してこい。どうせこの部家広いし無駄に部家数もあるんだから、一緒に泊まればいい。俺は逃げない。準備して戻ってくるまで待ってる」
荷物整理にもそれなりの時間がかかるから、と告げればラジェルの笑みがぱあっと輝いた。
「ありがとう!じゃちょっと準備してくるから少しだけ待ってて。直ぐ戻るから」
「そんなに急がなくてもいいって・・・行っちまうし」
イイ笑顔のラジェルが走って部家を出て行ってしまった。何て慌ただしいヤツだ。
部家のベランダに出て外の大通りを見れば沢山の人の中でも直ぐ見つけられる、目立つラジェルが走って行く。
「何て言うか・・・俺、早まったかもしれないなあ。別にいいけど」
ふ、と吐息で笑って折角だからそのままベランダから夜の街を眺めてみる。
浮かぶ月はいつの間にか青くなっていて夜の夜になっている。微かに流れる風は心地良く、空にまで浮かぶ魔法の灯りは色とりどりで綺麗だ。
「夜の街、かあ。やっと落ち着けそうだな」
街に着いて、いろいろあったけどようやく長居できる宿に入ることができた。
生活の基盤を整えるにはまだまだ時間がかかりそうだけど、ようやく落ち着ける。
ラジェルのお陰で面倒毎もついてきたけど、プープーヤやハーティンに出会うこともできたしプラマイゼロ、と言った所か。
「さ、着替えて荷物整理でもするかな。ラジェル、直ぐに戻ってきそうだし」
やっと手に入れた落ち着いた時間だ。このままベランダから通りを眺めているのも良いけど、まずは準備だと、輝く笑顔のラジェルを思い浮かべて部家に戻った。


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