星のおくりもの. 23



珍しく、本当に珍しく翔愛の頬が膨れている。

分かり易く御機嫌ナナメです、と可愛らしい顔で精一杯の怒りを表現している。

 

「起こさなかったのは悪かったと思っているが、休息が一番だ」

「酷いです。僕、お手伝いしたかったです。動けます」

「ああ。動けるのは分かっているし、休息したのだから今夜も星に願えるぞ」

「違います。そう言う事ではないのです。お腹空きました」

「沢山食え。捕りたてだぞ」

「・・・美味しいですけど、違うのです」

 

はじめてだろう、翔愛がここまで怒っているのも。

それでも翔雅から離れずに甲板に視線を集めている。

 

あのまま、気持ち良く疲労した身体を横たえた翔愛だったのだが、そう言う時に限って眠りは深く、気づいたら船に戻る途中だったのだ。

起きて果物を採って、翔雅と共に、なんて甘い夢を見ていた翔愛だから目覚めた時の動揺が大きくて皆の視線を集中させる事になっている。

 

「それでも離れないのですから、可愛いですよねえ」

「あれではますます可愛いだけですからねえ」

 

そんな翔愛を眺めて笑っているのは珊瑚と二日酔いから復活した天丸だ。

翔愛には聞こえない様に、翔雅にだけ聞こえる様に呟いて笑っている。

翔雅も怒るでもなく、二人の言う通り可愛いと思っているのだから笑うしかない。が、ここで笑うとますます翔愛の機嫌を損ねてしまうので我慢して妙な表情になっている。

そんな周りの反応を知らない翔愛は一人頑張って食料を頬ばり、精一杯の怒りを見せていたのだが、それも長続きはしない。

 

分かっているのだ。理不尽な怒りで、悪いのは翔愛だと。目覚めたときの空腹と状況でつい怒ってしまったのだが翔雅に甘えすぎだ。

だんだん食料を運ぶ手も遅くなって、ついには止まってしまう。

 

「どうした?まだ全然食ってないだろう、どこか具合でも悪いのか?」

 

なのに翔雅はどこまでも優しい。隣に座ってちゃんと翔愛を片腕で抱き寄せてくれていて、甘やかしてくれて、涙が出そうだ。

 

「ごめんなさい。翔雅さま、悪くないです・・・僕が悪いんです」

 

俯いてぎゅっと手を握りしめれば頭の上から小さく笑われて、抱き上げられる。
翔雅の膝の上に乗って、頭を撫でられてますます涙が出そうになる。

 

「俺も悪かったからおあいこだ。そんな顔をするな。ごめんな、起こさなくて」

 

額をこつんと当てて間近で翔雅が謝ってくれる。翔愛が悪いのに、いつだって翔雅はこうして甘やかす。何も言えなくてじっと見ていたら目元に口付けされた。

 

「ごめんなさい。ありがとうございます、翔雅さま。でも、僕、甘やかされて駄目な人になりそうです」

「少しは駄目になって良いぞ。翔愛は頑張り過ぎだし、俺にも悪い所はあるからな。ほら、まだ食い足りないだろう。もう少し追加するか?焼いてくるぞ」

 

翔雅の笑みが優しくて、うっすらと頬を染める翔愛にもう涙はない。

こうやって、少しずつ成長して・・・する前にやっぱり甘やかされて駄目になりそうだから頑張らないと、と思い直す。

 

「はいはい、良い雰囲気なのは分かりますけどここは甲板ですからね。翔雅様はその辺で。翔愛様はもっと怒って良いんですよ。どうせ翔雅様が悪いんですから」

 

忘れていた訳ではないがここは甲板で人が多い。

一段落ついたと分かったからなのか、ぱん、と手を叩いて天丸が来た。

二日酔いで寝込んでいたと聞いたのだが元気そうで、既に片手には酒の入ったジョッキを持っている。

 

「天丸さま、良くなったのですね。でも、翔雅さまは悪くないのです」

「何で寝込んでないんだお前は。今日は絡むなよ」

「全く、心配して下さる翔愛様に対して何ですか翔雅様、その言いぐさは。今日は絡みませんよ、最後の夜なんですから。雷吾とお願いをするのです」

「またロクでもない事を願うくせに」

 

翔雅と天丸は仲が良いのに悪い。散々絡まれたのが堪えているらしく翔雅が天丸の持つジョッキを嫌そうに見ているが元気になって何よりだ。

天丸の後ろから珊瑚が椅子を、雷吾と子由が料理を運んできて星南と葉多がテーブルを運んでくる。

 

「おい、何で集まるんだ」

「だって宴ですよ。最終夜の。時間まではみんなで楽しみましょうってば」

「返答をする前にセッティングを終えては決まったも同然だろうが」

 

わらわらと用意されるのは特設の席だ。

甲板の上では他にもテーブルを持ち寄ったり椅子を運んだりと、最終夜に向けて忙しくしている。

こうなれば後は騒ぐだけで、翔愛も翔雅の膝から下りて隣の椅子に移動する。

はじまりの合図もなければ終わりの合図もない宴はずっと続いていて、それも今夜が最後。ありったけの力で騒ごうとしているのが翔愛にも分かる。



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