日が昇った頃になってようやく翔愛の目が覚めた。
夜明け前の事ははやり覚えていなかったのであれは眠っていたのだろう。
挨拶を済ませ、花びらの結晶の説明を受けてからひとまずは朝食にしようと甲板に出た。朝食には少し遅い時間ではあるが、甲板はいつでも宴が開かれているからあまり関係ない。
翔雅と共に席に着けば待ってましたと言わんばかりに子由が近づいてきた。
良い笑顔だ。
「翔雅様に朗報です。天丸殿が二日酔いで寝込みました」
「それは何よりだ」
対する翔雅も良い笑顔だ。
二日酔いで苦しんでいるだろう天丸に酷いとは思うものの、昨日までの騒ぎを思えば多少は仕方がないと言う所か。
他にも休暇中ではあるが仕事の話もありそうなので翔愛は席を立って朝食を取りに行く。甲板の端ではいつでも料理が作られているし、作り置きの食料も多い。
「おはようございます、翔愛様。朝ご飯ですか?」
料理を作ると言っても簡単な物だけだが、そこに立つのが星南ならば大抵の物が出てくる。他にも数名が忙しく魚や貝を焼いていて良い匂いが漂っている。
「はい。僕と翔雅さまの分です。子由さまの分も・・・」
「子由殿でしたらさっき食べてましたから摘める料理で良いでしょう。今日も快晴で絶好の遊び日和ですね」
「良いお天気です。星南さまも遊びますか?」
「そりゃもう思う存分遊びますし泳ぎますよ」
この船にいる間は誰もが休暇中だから本来であれば星南が料理をしなくても良い。のだが、ついつい手が出てしまう様で自分の分と言いながらも次々と朝食を作り上げている姿は食堂にいる時とそう変わらない。
「結局、料理をするのが好きで楽しいのですよ。だから特別サービスです。先程、街に降りた人達からのお土産ですよ」
手際よく二人分の朝食を用意してくれた星南がぱちりとウインクをしてもう一品足してくれた。
船の上ではできないと言っていた冷たいデザートで、葉っぱの器に冷やした果物のゼリーとシロップ漬けのスポンジが山盛りになっている。
「ありがとうございます。とても美味しそうです」
「見かけは無骨ですが今評判の物との事でしたよ」
朝食は暖めたパンとピラフ。それに数種類の魚料理とスープに飲み物と果物、デザートだ。朝は沢山食べなければ動けないと言うのは誰もが言う事で翔愛には少々多いものの翔雅はぺろりと食べる。
用意してもらったワゴンを押して席に戻れば翔雅と子由も手伝ってくれて朝食の開始だ。
「さて、最終日だな。何となく惜しい気もするが仕事も溜まっている事だし、良い休暇になった」
「翔雅様、それじゃもう終わるみたいじゃないですか。はじまったばかりですよ」
「それもそうだな。ああそうだ、昼間は離島へ出ようと思うのだが、どうだ?」
「離島ですか?」
「ああ。前に言った所とは違う避暑地だ。小さいがゆっくりできる。二人きりでな」
朝食を食べながら翔雅がどこか悪戯を含む笑みで翔愛を見る。とても嬉しし提案なのに、不思議な笑みだ。
首を傾げながらもこっくりと頷く翔愛に子由が横を向いてくすくす笑った。何だろう?
「・・・子由、蹴るぞ」
「いやだって。良いじゃないですか、ええ、とても良いと思いますよ」
翔愛には分からない会話だ。
不思議に思っているとテーブルの下で鈍い音がした。
羽胤国は世界の中心にある島国だ。中心の大きな島を本島とし、離島にぐるりと囲まれ数も多い。
大きい離島は避暑地として人気があり、人の住まない島であっても建物が整備されていたりする。
「この島は王の管理する離島の1つだ。普段は来客等に使用される事が多い」
「綺麗です。お花、沢山ですね」
「ああ。整備しなくとも花が増えるが一応人の手が入っているからな」
船から下りて移動して。
砂浜に停泊できる小さな島だ。見渡すだけで全貌が分かり、一週歩いてもそうかからないだろうけど、小さな森とあちこちに花が溢れている。手を引かれて森の中を進めば石造りの建物が見えてくる。
「小さいが一応全ての施設は整っている。昼は魚と貝を捕って食おうと思う。果物はその辺にあるから好きなだけ、で」
「じゃあ海に潜りますか?」
「ああ。腹が減ったらな」
「僕もお手伝いします」
建物は確かに小さく見えるが、避暑地とあって開放的な造りで内側が広く見える。玄関はなく入り口がリビングで、奥に寝室と浴室があるとの事だ。天井の一部をくりぬいて硝子を填め、幾重にも布を垂らして日よけとしている。
「光が綺麗です」
「どれ、少し汗をかいたからまずは飲み物だな。翔愛、手伝ってくれ」
「はい」
二人きりだから全ては自分たちで。と言っても元から翔雅は腰の軽い王で全ての事を自分でする。羽胤国では誰もがそうで、翔愛もようやく一通りの手伝いができる様になった。
翔雅の後を追って茶の用意をし、建物の外に実る果物を採って皿に盛りつける。それぞれグラスと皿を持ってリビングに戻り、向かい合わせでソファに座って一息。
「美味しいです。井戸水、冷えていますね」
「なかなか良いな。酒もあったし、夜もここで過ごすか?」
「・・・とても、迷います」
静かな空気で翔雅と二人きり。船での生活でも翔雅と二人きりになれる時間はあるけれど、基本は多くの人達に囲まれてずっと宴だった。
くすりと笑む翔雅をじっと見て、翔愛も笑みながら贅沢な迷いを味わっていたら手招きされた。素直に席を立って翔雅の前に立てば手を伸ばされて、抱き寄せられる。
「翔雅さま・・・」
翔愛も手を伸ばして翔雅の頭を抱けば小さな笑い声が腹に響いてじわりと熱くなる。
「船でも良いが、俺は静かな部屋の方が良いし、偶にはこんな空間も良いだろう。まだ昼間だけどな」
ゆっくりと翔雅の手が夜の動きになって翔愛の身体がぴくりと揺れる。
そうか、朝のあの笑みはこう言う訳だったのか。
誰もいない離島の中、翔雅と二人きりの空間で、まだ日は高いけれど抗う気持は翔愛にはない。むしろ嬉しくてほんのりと頬を染めて笑みが浮かぶ。
「口付け、しても良いですか?」
両手で翔雅の頭をそっとくるんで、身をかがめれば森色の瞳が翔愛を見上げる。柔らかく、けれど熱を含んだ瞳にいつまで経ってもどきりとする。