星のおくりもの. 9



甲板では夕暮れから宴がはじまるが、参加は自由で立食になっている。

もちろん椅子とテーブルも用意されていて、それらは甲板の端をぐるりと囲む様に並べられている。

 

奏でられる音楽と既に酒が入って踊る者達で賑やかで、小舟を出して海に出る者もいればこんな時でも仕事に追われて部屋から出られない者もまたいる。

気の毒だとは思うがそれぞれの楽しみ方があるのだと無理矢理納得するしかない。

もちろん船にまで来て仕事をしている筆頭は倫斗だ。

 

反してたっぷりと休んで身体も洗い、いろいろな意味ですっきりした翔雅と翔愛は宴の席で酒と料理に舌鼓を打つ。

 

「はい、沢山食べてくださいね翔愛様」

「ありがとうございます、天丸さま」

 

相変わらず翔愛の周りには天丸が笑顔で控えていて、小皿に料理を山盛りにしている。

あまり食べられない翔愛だが訓練の成果と言うべきか、ようやく一人前を平らげられる様になった。それでも少ないと思うのは人の5倍も食べる天丸だからだ。

並んだ料理は城から持ち込んだものに昼間、海で捕った魚や街で仕入れたものと山積みだ。当然の様に酒も樽で並べられていてあちこちで賑やかに宴が進行している。

 

「風が気持良いな。さて、このまま宴で飲むべきか、仮眠すべきか悩む所だが、どうする?」

 

翔雅も料理と酒を大量に片付けつつ翔愛を隣に機嫌が良い。仕事は好きだが偶にはこうして解放されるのも良い事だと分かっているし、何より滅多にない流星群は王であっても楽しみなのだ。

風呂に入りすっきりとした衣装、と言うよりは寝間着と変わらない姿で、潮風に金色の髪を揺らせながらちまちまと料理を食べる翔愛を見る。

翔愛も髪飾りを全て外し、衣装もゆったりとした下衣のみ。決まった衣装でいる必要はないから水色から裾になるにつれ深い青に染められた2人で揃いの衣装でもある。

 

「このままでも楽しいですけど、眠たくなったら困ります」

「この騒ぎで眠くはならないだろうが、そうだな、寝てしまったら俺が起こすから安心しろ」

「はい。じゃあ、後で踊りたいです」

「良いぞ。その前にちゃんと食べて休憩してからだ」

 

未だ食べると言う行為に慣れていない翔愛はちゃんと食事に集中して、その後の休憩も挟まないと具合が悪くなる。宴でもどの席でも誰もが好き勝手に飲み食いして騒いで踊っていても翔愛には遠い世界だが、これでもだいぶ慣れた。

一生懸命に食べ続ける翔愛を見守りつつ翔雅も酒を飲んでは周りを見回して笑い、天丸や珊瑚が料理を持ってくる度に顰めっ面をして追い返す。気心の知れた者しかいない船の上だから他にもいろいろと翔雅や翔愛を囲むが皆笑顔で楽しそうだ。

 

「お腹いっぱいになりました。デザート、美味しいです」

「それは新作だ。果物をゼリーで固めた内にクリームを入れている。周りの花は特別栽培のもので味も良い」

「はい。雷吾さま、すごいです」

「当然の事だ。他にも持ち込んだが船には簡易冷蔵庫しかないから冷たいものはそれだけになる。後は果物と焼き菓子だ。沢山食え」

 

遅れて船に乗り込んだ雷吾が一番先に翔愛の元を訪れて新作の冷たいデザート渡して、その後ろの天丸がくっついている。

料理長であり、天丸の恋人でもある雷吾は大柄な体格に鋭い眼光を持つ軍人の方が似合いそうな男だが、不思議と発せられる空気が柔らかく繊細なデザートを得意とする。もちろん他の料理も凄腕だ。

 

「雷吾、私には何かないんですか?」

「あるぞ。翔雅と天丸には翔愛と同じものだが果物が酒漬けになっている。花もだ。数は少ないが同じ様なものを持ってきたから配ると良い」

「私と翔雅様が一緒ですか。何でしょう、妬ける?」

 

この2人もいつ見ても仲が良い。べったりとくっつくのは天丸の方だと思われがちだが、さりげなく雷吾の手も天丸を引き寄せている。

そんな2人を前に翔雅が呆れつつもしっかりと自分の分のデザートを取って手を振る。もちろん追い払う振り方だ。

 

「分かったから後は誰かに頼んで適当に配れ。ああ、リュティカがいるからまずはそこにな。後で煩いから。ありがとう、雷吾。後は思う存分飲み食いするなり部屋に籠もるなり、自由にしてくれ」

「何ですその言い方は、酷いですよ翔雅様」

「お前には何も言っていないのだが、まあ良い。俺たちの世話も大丈夫だから自由にしてくれ」

 

翔雅としては呆れ半分、折角なのだからぞれぞれ楽しんでくれ、が半分だ。

ひらひらと手を振ればまだ何か言いたそうな天丸を雷吾が抱えて持って行ってくれる。

残ったのは小さなデザートを笑顔で食べる翔愛と、苦笑しながらも自分の分はちゃっかりと確保した翔雅で。

 

「翔雅様のも美味しそうです。僕のと一口交換しませんか?」

「もちろんだ。が、酒がキツいからちょっとだけな」

「ちょっとだけなら大丈夫です」

 

こんなやりとりも翔愛とできる様になった。

ひっそりと成長を嬉しく思いつつ小さなスプーンが翔雅のデザートを掬ってぱくりと銜える。ほころぶ唇に口付けしたいと思うのは当然の事だが人が沢山の、しかも誰も遠慮しない宴の中では我慢すべきだと緩む口元をそのままにしていればじいっと見上げられる。

 

「どうした?」

「翔雅さま、嬉しそうです」

 

ほわりと笑む翔愛も嬉しそうだ。

やはり何もしないで耐えるのももったいないと、素早く小さな額に口付けすれば花が綻ぶ様な笑みと周りでしっかり見ていた者達からの歓声があがった。



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