星のおくりもの. 3



子由を見てにっこりと微笑むその表情は美しいものの、寒さと恐ろしさを同時に感じる部類でもある。

長く伸ばした茶色の髪を頭の高い位置で一つに束ねている天丸は今日も『らしい』と言うべきか、一番忙しいのに誰よりも元気な印象がある人だ。

 

「今日も頑張ってますね、翔愛様。さて、翔雅様から流星群の話は聞きましたか?」

 

軽々と片手で持つ荷物はかなりの重さだが、一切重さを感じさせないのも天丸だからと言うべきだろうか。

肩を落とした子由を後ろに追いやって、空いているもう片方の手を翔愛に差し出せば小さな手が乗せられる。

もうあの頃の様に一人で歩くにも不便していた翔愛ではないのだが、癖の様に共に歩く時は手を差し出してしまう。いや、癖と言うよりは全身で信頼を表してくれる翔愛と純粋に手を繋ぎたいと思っているからか。

握れば成人男性としては有り得ない子供の様な手だが、指先にはペンだこができているし、手の平にはマメの感触もある努力家の立派な手だ。

 

「はい。夜になったら船を出すと聞きました。みなさん、一緒ですか?」

「もちろんですよ。折角なので大きな船を出す事にしまして客室も完備していますしお泊まりですね」

「僕、大きな船ははじめてです。いえ、羽胤国に来る時に乗っていました」

 

恐怖と不安と痛み。翔愛が羽胤国に嫁いだ時にあったのは悲しいものだけだった。
紆余曲折があり痛みと悲しみを経て、嫌われていた翔雅と愛し合う仲になり婚儀も終え、離島での蜜月を過ごしたのは年を跨いだ前の事。

幸せで輝きながらも覚えるべき事は山ほどあって、ようやく城の中を自由に歩ける様になった翔愛は毎日を忙しく過ごしている。
歩く事すら満足にできなかった過去はもう昔。けれど、思い出せばじわりと痛む心があるのも本当で。

羽胤国に嫁ぐ際に乗せられた船は大きくて立派だった様に思う。あの時は恐怖と不安で何も覚えられなかった翔愛だけれど、思い出してふと表情が曇ってしまった。数多く残る傷跡はまだ生々しく、直ぐに痛んでしまう。

 

表情の曇った翔愛に気づいた天丸は慌てずに柔らかく笑んで握っている手を握り直した。

 

「その船とは全く違いますよ。乗り心地も設備も最高級で、もちろん夕食は甲板で取り立ての焼き魚ですし雷吾のデザートも付いています」

 

傷は時と環境と、何より翔雅を筆頭に天丸達が癒すべきものだから行動するだけだ。にっこりと普段見せる恐怖を感じさせる笑みではなく、純粋な笑みを浮かべる天丸に翔愛も嬉しそうに微笑む。

 

「デザート・・・好き、です」

「私も大好きです。では参りましょうか」

「どこにですか?」

「折角の流星群でお祭り騒ぎなのですが来客がありまして、少しの間ですが滞在なさると言うので謁見の間までご案内です。南の大陸からいらしている魔導師の中でも最高の大魔導師様ですよ・・・一応」

南の大陸はこの世界で最も『魔法』の発達している大陸だ。

今回の来訪はある魔法の道具を北の大陸に運ぶためで、羽胤国を中継点とし、城の倉庫で魔力を帯びた品を保管して旅の準備をするとの事だ。


以前であれば翔愛には関係のない話だったのだが、城の中に慣れてきてからは積極的に翔雅の仕事を手伝いたいと動き、謁見も翔愛がいて良いものであればなるべく話を聞く事にしている。

王のパートナーであれど政務に関わるか関わらないかは本人の自由ではあるが翔愛は関わる事を選んだ。


謁見の話を聞いてきゅっと表情を引き締めつつ、大陸の歴史を小さな頭から引っ張り出しているのだろう翔愛は何も出来なかった頃に比べて目を見張る成長を見せている。

素直に話を聞き、吸収し、努力を怠らず真っ直ぐに進む。その性質と積み重ねた知識と経験が着々と可憐で美しい見かけだけではない、王の隣に立つ頼もしいパートナーになりつつあるのだ。

天丸から見ても頼もしい限りで、翔雅から見ても今や庇護下にある小さな子供ではなくて信頼できるパートナーとなりつつある。




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