世界の中心にある島国、羽胤国。
常夏よりの常春であるこの国は地理的にも地位的にも世界の中心として存在している。
どの大国にも属せず屈する事のない羽胤国の起源は、世界中の商人がこの島に辿り着いた時にはじまる。幾つかある大陸に囲まれる様にして存在するこの島は不思議と世界の中心になっており、潮の流れもこの島に集まり世界に流れていく。
よって、世界中の品々が集まり栄え、長い年月を経て羽胤国となった。
世界中の商品が通過すると共に情報も流れ、国となってからは流通と共に世界を平定する役割も担っている。
ただ意見を述べるだけだが世界の中心である羽胤国の意見は公平であり、私心で揺らぐことのない意見だ。
何者にも揺るがない第三者の意見は長い歴史で積み重ねた羽胤国の信用であり、絶対的ではないものの冷静で正確な意見として取り入れられ続けている。
「長い歴史の積み重ねで羽胤城には国内を統括する部署と諸外国を見る部署の大きく2つに分けられる様になりました。まあそのお陰で忙しくもある訳ですがやり甲斐はありますね。それでは、次回までに歴史の本と大港の報告書を読んできて下さい」
「はい。ありがとうございました、倫斗さま」
中庭での休憩が終わった後の翔愛は大臣である倫斗の時間が空いたとの連絡を受けて勉強会になった。
羽胤国の歴史を教わりながら、ようやくひっかからずに書ける様になった文字でメモを取り終えてふうと息を吐く。倫斗は厳しい先生だが厳しいだけではなく優しくて繊細な人だ。時間が空いた、のではなくて忙しいのに何とか時間を作って翔愛の為に先生になってくれる。
短い金色の髪に水色の瞳、大臣を示す緑色の薄衣が似合う倫斗は話が終わると必ず宿題を告げて忙しく部屋を後にしてしまった。お茶を飲む時間もない程忙しいのも相変わらずだ。だからこそ、より一層ありがたい。
挨拶もそこそこに早足で部屋を出て行った倫斗の背中に頭を下げれば、入れ替わりに子由が入ってきた。
「お疲れ様です、翔愛様。では参りましょうか」
「子由さま、お待たせしました」
子由は親衛隊の隊長で翔雅の友人でもある。が、親衛隊でありながらも普段は国王の側にはいなく、大臣職を兼任しているこれまた忙しい人だ。最近は翔愛の秘書の様な役目も請け負っているのでさらに忙しい。
本人は楽しいので誰にも譲る気がないと宣言しているのは掛け値無しの本音だと言うのは誰もが知っている事で、知らないのは翔愛だけで、いつでも真っ直ぐに見上げてくる可憐で美しい王妃をこよなく気に入っている。
「いえいえ。時間を見計らって来ているだけですからね。お荷物お持ちしますよ」
「大丈夫です」
「けれど、極厚の本を5冊もだなんて無理だと思います。せめて3冊は持たせて下さい」
移動しながら宿題、と渡された本を両手で必死に持つ翔愛に、ひっそりと可愛いなあと思いつつも半分を受け取ろうとすれば後ろからわざとらしい溜め息が聞こえた。同時に翔愛の顔がぱあっと輝く。
「男なら一度に全て取り上げるくらいの事はしていただかないと減点ですね、子由殿。これくらいだったら片手で持って警護にも不安はありませんよ、くらい言わないと」
「天丸さま!」
子由の後ろからひょいと、軽々と全ての荷物を肩でで持ち上げたのは天丸だ。城内でただ一人、黒の衣装を身に纏う天丸は国王専用執事と言う不思議な職で、他国であれば宰相の任を幾つか兼任しているこの城で一番忙しい人だ。