花咲く海で...29





日々は穏やかに過ぎ、もう留華を離れるまで後少しになってしまった。

「あっと言う間の一ヶ月だったな」

庭に置いた長椅子の上で寛いでいる翔雅がほう、と息を吐いた。翔愛も同じ気持ちだから、寝そべる翔雅の上で同じく寛ぎながらほう、と息を吐いた。



本当にあっと言う間だっと思う。
忙しい訳でも無いのに、見る物全てが新鮮だったからだろうか。
この宮殿も、地下の白い海も、花々も、仕事をしない翔雅も。
毎日が驚きの発見で、新しい事も沢山覚えたし、何より仕事をしていない翔雅とはずっと、ずっと一緒だった。

「もうそろそろ帰るのですね」
「ああ、帰って、仕事だな」
「翔雅さま、嫌そうな顔です」
「まあ、な。サボり癖が付いた訳じゃないが、のんびりし過ぎたからな」
「帰ったら忙しいのですね」
「そりゃー溜まりに溜まりまくってるだろうし、天丸も待ち構えてそうだしなぁ」
「僕もお手伝いできたらいいのに・・・」
「んー。翔愛は翔愛で忙しくなるだろう?」
「でも、翔雅さまと・・・一緒に、いたいです」
「俺もだ」

くっついてぼそぼそと喋って、触れるだけの口付けをした。もう口付けも当たり前の事になって、こうしてくっついているのも当たり前だ。
なのに、戻ったらまた離れている時間が増えてしまう。ちょっと残念で、寂しい。
はふ、ともう一度溜息を翔雅の腹に落としたら2人の上に影が出来た。

「なーにをごろごろしていちゃついているのですか、お二人とも」

子由だ。両手を腰にあてて2人を見下ろしながら苦笑してる。
その後ろにはお茶を持った星南もいた。

「日陰でも一日ごろごろしていたら暑いですし、何よりも飽きませんか?」

子由の隣に立った星南が翔愛と翔雅にお茶をくれた。長椅子の側にあるテーブルに冷たいお茶と花のお菓子を置いてくれたのだ。
確かにちょっと暑いけれど、飽きると言う事は。

「僕は、こうしてるの、気持ちよいです」

無いのだ。
きっぱりと言い切って翔雅の腹に懐いたら、今度は翔雅まで苦笑して翔愛を抱き起こしてしまった。折角くつろいでいたのに残念だ。

「ま、確かにだらけ過ぎかもな。翔愛、茶を飲んだら海でもいくか」
「海ですか?だったら下の海が良いです」
「そうだな。あそこなら涼しいか」

翔愛と翔雅でまたぼそぼそと喋っていたら子由が2人分の椅子を持ってきて向かい側に座った。どうやら多めにお茶の用意をしていたらしく、即席のお茶会になった様だ。
この庭はこうしてお茶や食事の場になる事が多く、思えば部屋の中にいるよりも、庭でくつろいでいる時が多かったかもしれない。抱き起こされたままの格好で用意してもらったお茶を飲めば、花びらが口の中に入って、すっぱい。

「海も良いですけれど、散歩も良さそうですよ。今日は風が気持ちよいですしね」
「それに、地下の海は泳ぐ為では無くのんびりする海ですよね。それではここで寛いでいるのと同じですよ」
「そうか、散歩も良いな。翔愛、どうする?」
「えっと、どうしましょうか・・・海も好きですけど、お散歩もいきたいです」
「じゃ、今日は動く為にも散歩にするか」

お茶をしながらの会話は大抵がたわいもない話で、それもまた楽しい。
海の匂いと花の匂い、それに、皆に囲まれて過ごす時間がとても好きだと思う。

今ここにいない葉多と佐一も一緒だったらもっと楽しいのに。
そう思えば宮殿の中から椅子を持った葉多と佐一が庭に出てきた。
買い出しに出かけていた2人だったから、お土産なのか、葉多が袋も持っていた。

「おかえりなさい、葉多、佐一」

子由が声を掛ければ葉多は黙って頷き、佐一はちょっと緊張しながら敬礼をする。
佐一は忙しくてあまり皆と一緒にいない人だから、こうして来るのも珍しい。
星南が追加のお茶を用意しに席を立ち、葉多が小さな紙袋をテーブルに乗せる。
翔愛の目の前に置くから開けてみれば、水冷菓子が入っていた。水で冷やした菓子で、大抵が葉っぱでくるまれている。留華の水冷菓子はもちろん花の菓子だ。

「わぁ、綺麗です。ありがとうございます」

嬉しくて微笑めば葉多は表情を崩さずに頷き、佐一は真っ赤になった。
対照的な2人だ。

「お茶も入れ直しましたよ。さあ、どうぞ」

丁度星南も戻ってきて、これで全員だ。
全員揃ってお茶なんて珍しい。大抵は料理をする星南か、羽胤城と留華を行ったり来たりしている佐一がいない。

「今日はみなさん、お揃いです」
「そうだな。思えば皆が集まるのも久々か」

翔雅に翔愛、子由、葉多、星南に佐一。少ない人数だけれども、一緒に集まるのは珍しくて、嬉しい気持ちになる。にこにこしながら茶を飲めば、皆も笑顔でそれぞれ茶を飲んだり菓子を摘んだりして寛いでいる。
王と同じ席でテーブルを囲むのは世界でも羽胤国くらいだそうで、けれど、翔愛はこんな雰囲気が嫌いじゃない。むしろ好きだ。
小さなテーブルに人数分のグラスを乗せることすら狭くて大変だけれども、そんな事すら嬉しく思う。

「もうそろそろ帰る準備をしないといけませんね」
「もう帰りですか、もう少し花の料理の研究をしていたかったです」
「星南殿は花がお気に入りでしたからね」
「帰っても留華の花を取り寄せれば良いだろう?」
「僕もお花の料理、好きです。戻ってからも、食べたいです」
「翔愛様がそう仰るなら頑張りますよ」
「楽しみです!」

花で溢れる留華では毎日が花で溢れていた。
景色も、宮殿の内も、食事も飲み物も。それももう終わり。
寂しい気持ちもあるけど、留華は近いのだから何時でも来れば良いと翔雅がそっと囁いてくれて、皆の笑いを誘う。

少しのお茶の時間がだいぶ過ぎて、けれどのんびりとした時間が心地良い。







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