花咲く海で...30





気付けばお茶の時間が夕暮れの時間になってしまって、どうせだからと皆で街に降りて夕食を取った。

偶に星南の休みも兼ねて街に降りる事もある。けれど、休みと言うよりは、より花を使った料理の研究をしたいが為の事とも言える。

夜になっても花の匂いで溢れる留華は人も少なく治安も良い。
連れだって宮殿に戻る道は何時でも甘い匂いと潮の匂いで溢れている。翔雅に手を引かれながら皆の後をのんびりと歩く。月の灯りとそれぞれが持つ洋燈の明かりが綺麗だ。

「お腹いっぱいです」
「沢山食べたな」
「はい。ぱんぱんです」

ふう、と息を吐きながら腹をさすれば翔雅に笑われて、翔雅の手にも腹を撫でられた。前を歩いていた皆も2人の話に笑い、宮殿へと戻る。
後はもう眠るだけで、翔雅は星南から飲み物と小さな菓子の載ったトレイを受け取り、翔愛は一足先に浴室へ入る。
今日はそんなに動かなかったけれど、沢山食べた。服を脱いで腹を見ればぱんぱんで、膨れている。指先で突いていると翔雅が背後から翔愛を抱きしめて、また笑った。

「本当に膨れているな。まあ、朝にはしぼむだろう」
「不思議、です」
「俺も不思議だ」

からからと笑いながら翔愛の天辺に口付けをしてくれた翔雅も服を脱いでお風呂の時間だ。すっかり2人で入るのが当たり前で、翔愛の長い髪はもっぱら翔雅の担当にもなった。洗って、香油を刷り込んで。手入れが大変だと思うのに、翔雅は楽しそうに手入れをしてくれる。

「さ、先に上がっていろ。俺は後から行くから。ああ、寝室に飲み物があるから飲んでろ。でも、酒と間違うなよ」
「大丈夫です。では、待っています」

長風呂の出来る翔雅は長めに浴槽に浸かるのが好きだ。けれど、翔愛は茹だってしまうからあまり長湯は出来ない。無理して浸かってものぼせるだけだからと、最近では翔愛だけ先に上がる事も多い。

ざっと濡れた身体と髪を拭いて寝室へ入れば夜の風が少し冷たく感じる。翔雅の言う通り、寝台の側にある果実水の瓶を持って中庭に出た。
椅子に腰掛けてぼんやりと空を見れば夜空がきらきらと光っていて、綺麗だ。
見上げる空は羽胤城で見上げる空と一緒。でも、留華の夜空には花の匂いがある。
すっかり慣れたこの匂いが無くなったら少し寂しいかもしれない。

「ふう、風呂上がりは涼むのが一番だな」
「翔雅さま」
「ほら、髪はちゃんと拭く。長いから乾かさないと朝が大変だぞ」

どかりと翔愛の隣に腰掛けた翔雅が、翔愛の頭をがしがしと拭いてくれる。頭も一緒に揺れるけど、大きな手が力強くて、ちょっとくすぐったい。
思わずくすくすと笑えば翔雅も笑って、そのまま口付けされた。唇を合わせれば翔愛の飲んでいた甘い果実水の味がして、また笑ってしまう。

「甘い、です」
「まったくだ」

眉間に皺を寄せた翔雅が自分の分の酒を飲んで、また口付ける。今度は酒の味がする。ほのかに甘くて、でも苦い。舌を絡めれば酒に酔いそうになる。
何度か舌を絡め合って顔を離して、こてんと翔雅に凭れかかる。夜の風が気持ちよく感じて、ほう、と息を吐いた。
そうして、ぽとりと言葉が落ちる。

「しあわせ、です」
「ああ、俺もだ」

呟きは翔雅にも聞こえていたのだろう。
同意してくれた声がとても優しい響きで翔愛の耳元に落ちてきた。






長い間のお付き合い、ありがとうございました!新婚旅行編と言う事で、幸せいっぱいでのんべんだらりんと過ごさせていただきました。絶対、翔雅も翔愛も太って城に帰る事になるでしょう(笑)こんな話ですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。本当に、読んで頂いてありがとうございました(*^_^*)


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