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眠ってしまえば朝になるのは一瞬で、目を覚ますのは翔愛の方が遅かった。
ぱちりと目を開けたら翔雅は既にいなかった。何度か瞬きして、ゆっくりと起き上がれば日の光はまだ朝日。寝室をぐるりと見ても翔雅はいない。先に朝食に行ったのだろうか。何となくまだ眠気が去ってくれなくて、手で目を擦っていたら脱衣所から翔雅が出てきた。がしがしと頭をタオルで掻き混ぜていて、朝日に髪の雫が光る。
「起きたのか。おはよう、翔愛。あまり擦ると赤くなるぞ」
「おはよう、ございます・・・ちょっと、まだ眠いです」
「夜更かしだったからな。後で昼寝でもすれば良いさ」
すたすたと歩いてきた翔雅が寝台に腰掛けて翔愛の額に唇を落とした。くすぐっいけれど、嬉しい気持ちになるから翔愛は寝ぼけた顔のままふにゃ、と微笑んで翔雅を見上げた。
食事の時間は決められていないけれど、概ね皆同じ時間になる。
その時の気分で場所が変わる事があって、皆の集まるリビングで取ったり、中庭にしたり、気が向けば街にも出る。今朝は星南の気分で中庭での朝食になり、皆が揃った。
大きな傘の付いた丸いテーブルにそれぞれが腰掛け、ゆったりと朝食を取る。
朝食が終わればそのまま別行動になったり、暫くお茶を飲みながらお喋りしてみたり、各自好き勝手に動く。
翔愛達は寝間着のまま朝食の席についたので、一度着替える為に部屋に戻った
「今日は島の北に行くのですよね」
うきうきと着替え始めた翔愛に翔雅はいや、と首を横に振る。
「体力温存だ。今日は宮殿でゆっくり過ごそう。そうだな、明後日くらいに出かけられる様になれば良いか」
「今日ではなくて、明日でもないのですか?」
変だ。今日の予定は昨日の夜に2人で話していたのに。
首を傾げる翔愛に翔雅がくす、と笑って翔愛を手招いた。首からすっぽりと被るだけの服に着替えた翔愛はちょこちょこと手招かれてソファに座る翔雅の前にぺたりと座る。翔雅も着替え終わっていて、床に座った翔愛の髪を梳いてくれた。
「明日になれば分かるだろう」
「あした・・・」
何か分かるのだろうか。髪を梳かれながらもう一度首を傾げればまた翔雅が笑った。
宮殿の中で過ごす時は翔雅と翔愛は別行動になる事が多い。一緒の時もあるが、翔雅は中庭で昼寝していたり、皆の居るリビングで本を読んでいたりしてあまり動かない。翔愛も昼寝したり本も読むが、折角だからと誰かを誘って宮殿の中を散歩する事もあるし、誰かの手伝いをする事もある。
今日はどうするのだろう。ちょろちょろと翔雅の後を追えば、何冊かの本を持った翔雅はリビングの一番大きなソファに寝転がった。どうやらこの休暇中に読めなかった本を沢山読んでしまいたいらしい。そんな翔雅に皆は笑いながらもそれぞれ勝手に自分の仕事をしたり、寛いだりしている。
子由と葉多は翔雅と翔愛の警護だから、基本的に自分たちだけで出歩く事は少ない。星南は料理をする人だから台所に籠もっている事が多い。佐一は羽胤城とこの宮殿を往復している連絡係と、星南の手伝いを兼ねているから、佐一が一番忙しい人なのかもしれない。
皆を眺めながらどうしようかなと思った翔愛だけれども結局翔雅の側に座って本を開いた。もう難しい文字も読める。書くのはまだ難しいけれど、読む分には困らなくなって、今読んでいる本は倫斗に借りた政治の本だ。難しい文字と言葉が並ぶ本は旅行に持っていかなくとも良いと言われていたけれど、まだ読み途中だったから持ってきている。
「随分難しい本をお読みなのですね、翔愛様」
本と格闘する翔愛に子由がお茶を持ってきてくれた。
「倫斗さまにお借りしました。まだ途中だったので読んでいるのですが、難しいです」
「そりゃそうでしょう。それは政治の書物の中でも上級者向けですよ」
翔愛の正面に腰掛けた子由が苦笑する。でも、折角だから読んでしまいたいのだ。
「何だ、翔愛。ここに来てまでそんな本か。ちょっと見せてみろ」
なのに今度は翔雅が起き上がって翔愛の本を覗き込む。お互いに読んでいる本には無頓着だったから、翔雅は今まで翔愛が読んでいた本が政治の本だとは知らなかった様だ。覗き込むなり難しい顔をした翔雅は勝手に栞を挟むと翔愛から本を取り上げてしまった。
「あ、まだ途中です」
慌てて手を伸ばすのに、翔雅の手は長くて届かない。しかも子由が何も言わずに立ち上がって翔雅の手から本を受け取って、そのまま部屋を出てしまう。本を翔愛の知らない所に仕舞いに行ってしまったのだ。
「勉強が悪いとは言わないが根を詰めるのも、休暇中に読むのもどうかと思うぞ」
困った顔の翔愛に翔雅が苦笑しながら頭を撫でてくれる。
「でも、まだ途中だったんです」
翔雅の手が気持ち良いけれど、丁度これから面白くなる所だったのに、と呟いたら翔雅の手がぴたりと止まった。
「面白くなるところだったのか?いや、面白かったのか?」
「はい。面白いです」
翔愛には面白い本だったのだ。確かに難しいけれど、政治の本ならではのおもしろさが翔愛にはあって、取り上げられてしまって残念だ。
しゅん、と方を落とす翔愛に翔雅は何故か溜息を落として、自分が読んでいた本を翔愛に貸してくれた。
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