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花咲く海で...21
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| 太陽の下で動き回ると汗をかく。だから翔雅も子由も着崩して剣の稽古をしていたのだ。その稽古も終わり、汗をぬぐいつつ、日陰に移動した翔雅達はのんびりとお茶を飲み、庭では葉多と佐一が稽古を始めた。 葉多は大きな身体で大きな剣をふるい、佐一は素早く動いて攻撃するものの、全て跳ね返されている。どうやら実力の差が大きい様だ。翔雅達も偶に野次を飛ばしながら楽しそうに見学している。翔愛も翔雅の隣で見学だ。剣のぶつかる音を聞きながら皆にいろいろ説明してもらって、また一つ賢くなれた。 「一口に剣と言ってもいろいろな物がある。翔愛は翔愛に合う物を見つければ良い。急ぐ事はないからな」 稽古が終わる頃、翔雅がそう言いながら翔愛の手を握った。翔雅の手は大きくて、暖かい。けれど、少し固い。剣を持つ人の手は固いと言う事も、初めて知った。 そうこうしている内に時間が過ぎ、稽古も終わって、夕食を取ってから翔雅と共に部屋へ戻った。部屋は夕陽が差し込んで赤くなっている。 ぽつりぽつりと会話をしながら一緒に服を脱ぎ、風呂に入る。何をするにも基本的に二人で一緒。夕日の差し込む風呂場は昼の風呂とはまた違って綺麗だ。 翔愛の長い髪は洗うのが大変で、翔雅に手伝ってもらうのも、もう当たり前の事になった。泡を立てながら優しく髪を洗ってくれる手に知らず安心して、息を吐く。 「さて、明日は何をしようか。翔愛は何かあるか?」 「ええと、今日は泳いだし、翔雅さまの剣も見られたので明日は・・・街に行きたいと思います」 「そうか。じゃあ街に出てみるか」 「はい」 留華の島に来てから翔愛の意見で行動する事も増えた。やりたい事、したい事、見たい事、翔愛には沢山ある。もちろん羽胤城でも翔愛にはいっぱいやりたい事があるけれど、この島での行動はまた別で、何をするにも翔雅が一緒だから嬉しい。 「この前は西の方に行ったから、今度はどうしようか」 「ん、と、どうしましょう。まだ行っていない所はありますか?」 「そうだな、確か北の方はまだだったな」 「では、北へ行きたいです」 「お供しよう」 くすくすと翔愛の背中で翔雅が笑う。翔愛も笑っていたら頭から湯を流されて少し驚いた。 「後は香油を垂らして終わりだ。身体を洗っておけ」 「はい」 香油は翔愛の髪を保護する為の油だ。やっぱり花から取る油らしい。翔雅が長い髪と格闘している間に翔愛は身体を洗う。香油はそのまま流さずにおくから、翔愛の身体を流せば終わりだ。 「翔雅さまの背中を洗います」 「ああ、よろしく頼む」 翔愛が終われば今度は翔雅だ。せっせと大きな背中を洗って、お風呂に入るだけで一苦労だ。 そうして二人で綺麗になったら浴槽に沈む。翔雅はどっしりと湯船に浸かるけれど、翔愛は最近になって少し遊ぶ事を覚えた。なにせ大きい浴槽だ。泳ぎを覚えたばかりだし、ちょっとだけ、泳いで遊んでしまう。 「翔愛、溺れるなよ」 そんな翔愛に翔雅の笑い声がかかる。 「溺れません!」 流石に浴槽では溺れない。髪の毛に香油を垂らしているから頭は湯に浸けられないから余計に、だ。 ちゃぷちゃぷと少し遊んで、それから翔雅の前に立つ。何も言わずとも翔雅の両手が伸びて、翔愛を軽く抱き寄せてくれる。 こうして抱き付いている時がとても好きだ。お風呂でも、部屋でも、どこでも。 どうしてだか、安心できて、ほっとする。軽く翔雅の首に手を廻して身を寄せれば洗ったばかりの翔雅からは花の匂いがする。 思えば翔雅は忙しい人だから、こんなにゆっくりお風呂に入れるのもこの島に来てからだ。初めは慣れなかったけれど、今はこれが普通。でも、城に戻ればまた忙しい日々が始まる。 そう、ずっとこの島にいる訳ではない。いずれ羽胤城に戻るのだ。 そうしたら翔雅は忙しい人になってしまうから、ずっと一緒になんていられない。 「・・・不思議、です」 ぽつりと呟いたら翔雅が首を傾げた。 「ずっと一緒にいるのが、当たり前です。でも、お城に戻ったら一緒なのに、一緒じゃありません。それが普通だと分かっているのに・・・どうしてだか、胸が痛いと思います」 気付けば翔愛の瞳にうっすらと涙が浮かんでいる。 そんな翔愛に翔雅は優しく微笑んで翔愛の頬に手をあてた。 「ずっと一緒だったからな。文字通り離れず、一緒。だからだろう、戻る事を考えて寂しくなったんだな、翔愛は」 寂しい。確かにそうだ。そっと薄っぺらな胸を押さえれば、その上に翔雅の手が重なった。優しい翔雅の声が浴室に響く。 「寂しいと思うなら何時でも俺の側にいれば良い。俺から向かう事は残念ながら難しい事も多い。けれど、そんな時は翔愛から俺の側に来てくれないか?」 「僕が翔雅さまを探すのですか?」 「ああ。こんな事を頼むのは申し訳ないが、翔愛から俺を探してくれ。もちろん、俺も暇が出来たら翔愛を探すぞ」 柔らかい声、少し笑いを含んでいる。瞳も笑っていて、翔愛も釣られて微笑む。 「分かりました。翔雅さまを探して、側にいます。いても、良いですか?」 「そうしてくれると嬉しい」 顔が自然と近づいて、軽い口付けをした。 |
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