花咲く海で...20





庭の中央に翔雅達がいた。翔雅と子由が剣を構えて向き合って、既に稽古は始まっていた。二人とも激しく動いている。

翔雅は海にいた時と同じ格好で、上衣をはだけさせて上半身は裸、髪は動きやすい様にだろう、きっちり結わえて大きな剣を片手で持ち、身軽に動いている。
剣と言う物は翔愛から見れば全く得体の知れない武器で、けれど剣を構える翔雅が不思議と格好良く見える。構える剣は大振りで、刀身が銀ではなく青だ。それも、深い青と同じ色。剣は知っている。人を斬る道具、武器で恐ろしいものだ。それなのに翔雅の剣は不思議な程、美しい。

そんな翔雅に対するのは子由だ。子由も上衣を剥いで上半身は裸で髪をきっちりと結んでいる。構える剣は翔雅よりも細いもので、持ち手が長い、装飾の美しい剣だ。


二人は剣を振りかざし、時には剣で防御しつつも激しく動き回っている。剣と剣のぶつかる音が中庭に木霊して、呆然と立ちつくす翔愛には気付いていない様だ。

鍛えられた身体の、その全てを使って剣を振るう。
動きは大胆に見えて機敏で素早く、けれど子由も負けていない。翔雅に比べれば子由の方が素早く見える。動き方が違うのだろうか、翔雅が一歩動く間に二歩動く様にも見える。なのに決して子由が勝っている訳ではなく、的確に攻撃を進めているのは翔雅に見える。初めて見る剣の戦いに翔愛の瞳は釘付けだ。

翔雅が剣を持つ事は知っていた。
翔雅だけでなく、羽胤城で働く人々の多くは何らかの武器を持っているのだとも聞いていた。けれど、実際に闘う姿を見るのは初めてだ。
それが本当の戦いではなくとも、初めてだ。

翔雅の動きから目が離せない。きん、と澄んだ音を立てる剣と剣。その動き、表情。全てがとても強烈で、美しい。翔雅を見つめたまま動きを止めてしまった翔愛は星南に背を押されるまま席について、そのまま見続けている。
どうしてあんな動きができるんだろう。あ、剣の先が掠りそう。あたったら痛いのだろうか。いや痛いだけではすまないだろう。身のこなしが素早くて、なのにぶつかる剣の音は重く感じる。不思議。とても不思議だ。初めて見る動きに翔愛はついていけない。翔雅も、子由も本当に良く動いている。

「翔愛様、あまり目を見開いていると落っこちますよ」

そんな翔愛の肩を星南が優しく叩いた。
はっとして瞬きすればちょっと目が痛い。

「ふふ、夢中でご覧になっていましたね。翔雅様の稽古を見るのは初めてですか」
「初めてです・・・すごい、です。驚きました」
「翔雅様も子由様もこの国でとても強い人ですから見応えがありますよ。と言ってもそろそろ休憩の様ですね」
「あ、終わってしまいました」

星南の言う通りもう終わりの様だ。何度か剣をぶつける音が聞こえて、静かになってしまった。残念だ。もっと見ていたかったのに。

「翔愛様、翔雅様にタオルを持って行ってあげて下さいね」

心なしか肩を落とした翔愛に星南が笑いながらタオルを渡してくれた。それを持って翔雅の所へ向かう。
庭の真ん中に立つ翔雅と子由は何やら話をしながら剣を鞘に収めて側にいた佐一に渡している。近づいてくる翔愛に気付いたのか、翔雅が笑みを浮かべて翔愛を手招きしてくれるから駆け寄って、思わず持っていたタオルをきゅう、と握りしめてしまった。

「ど、どうした?」

常にない翔愛の様子に笑みを浮かべていた翔雅が戸惑う。けれど翔愛はきらきらと瞳を輝かせて背伸びして翔雅を見上げた。

「すごいです!とても、綺麗でした。初めて見ました。でも、とても綺麗で、でも、すごかったです!」

珍しい。翔愛がこんなに興奮するなんて。
驚いた翔雅は翔愛があまりにも瞳を輝かせているから思わず吹き出してしまった。

「翔愛に見せるのは初めてだったからな。まあ、喜んで貰えて何よりだ」

ぽん、と翔愛の頭に手をおいて、けれど、と翔雅は真剣な顔をする。

「しかし、間違えてはいけない。翔愛、剣は人を傷つける為の武器だ。組み手とは言え、間違えれば相手も、自分も傷つけてしまう、そう言う物だ」

静かに語る翔雅に翔愛も気付く。そうだ、武器は人を傷つける道具だ。それは知っている。けれど、翔愛には剣を向けられた事もなければもちろん刺された事だってない。翔雅の持つ綺麗な剣が本当はどういう役割をするのかも翔愛は知らない。落ち着きを取り戻してじっと翔雅を見上げていたら手に持っていたタオルを取られた。

「そうだな。良い機会だから覚えた方が良いだろう。翔愛、闘う事は無理でも剣を持って身を守る事は出来る。やってみるか?」
「・・・やって、みたいです」

翔雅の真剣な表情に翔愛の表情も変わる。翔雅は何時だって真剣に翔愛に教えてくれる。今だって剣を持つ翔雅に見惚れていた翔愛を叱るのではなく、剣を持つ意味を教えてくれようとしている。そんな気持ちが、嬉しい。

「そうか。と言ってもいきなりは無理だからな。徐々に覚えれば良い」
「はい。ありがとうございます」

頷けば翔雅がぐりぐりと頭を撫でてくれた。






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