花咲く海で...12





休暇中は服装も楽になる。
翔雅は麻の、寝間着とそう変わらない服に着替え、翔愛は淡い緑色に花の刺繍が沢山ある、ふんわりとした服に着替えた。
城で着る服と違って、首からすとんと落ちる形の服は着るだけだから翔愛でも自分で着る事が出来る。けれど、長い髪はどうにもならないから、括る事も無くそのままにしてサンダルを履けば準備完了。ようやく遅い一日が始まる。

二人揃って星南に生ぬるい笑みを向けられながら昼食変わりの朝食を食べ、特にする事もないからと宮殿の外に出た。

留華の島は何処に居ても花と甘い匂いで溢れ、この季節は果実も多い。
歩きながら道端の実を摘んで、喉が渇けばやはり果実から水を取る。これは翔愛が好む果実水にもなり、直接果実から囓れば一層瑞々しく、味が濃い。

手を繋いでゆっくりと散策し、気付けば海に出ていた。真っ白い砂浜は太陽の光で熱くなっているものの、木々の下は涼しく、岩場もあり丁度良い。風は気持ち良く、岩場に腰掛けた翔雅が砂浜を歩く翔愛を眺めながらひっそりと苦笑した。

「いざ休みとなると何をして良いか分からん。普段から少し遊ぶべきだな」

そう。普段から働き詰めの翔雅だから、こんな時に何をして良いのかさっぱり分からない。
これが城なら仕事をするだろうし、突然の休暇があったとしても城内で読書をしたり剣の稽古をしたり、要するに何かしら仕事に繋がる事で時間を埋められる。けれど、この地は違う。今の翔雅は王では無く、ただの人だ。しかも、休暇中の一般人だ。

「昔は良く遊んだがなぁ」

ぼそりと呟く内容がおやじ臭い。はっと気付いて一人首を振る。これではいけない。折角の休暇だと言うのに情けないではないか。それでも何をしようかなんて考えつかず、翔雅とは違い、一人砂浜をちょろちょろする翔愛を見た。

サンダルを砂に埋もれさせながら本当にちょろちょろ、と言う言葉が似合う動き方だ。長い髪を揺らしながら右に行き、左に行き、見る物全てが珍しいのだろう、その動きは可愛らしくも可笑しい。休暇をどうして良いか分からない翔雅に比べ、翔愛は本当に楽しそうだ。
そうやって少しの間、ちょろちょろと動く翔愛を見つめていたら気付かれた。翔雅を振り返り僅かに首を傾げ、ちょこちょこと近づいてくる。

「楽しそうだな、翔愛」

翔雅の前で立ち止まった翔愛に手を伸ばす。そのまま小さな身体を軽く抱き寄せれば抵抗無く、すっぽりと腕の中に収まって、翔雅の腕に軽く擦り寄ってきた。

「はい、楽しいです。いろんな貝があってとても綺麗です」
「そうか・・・そう言えばまだ海には入っていなかったな。後で船でも出してみるか?」
「船、ですか?」
「ああ、小舟を出して浅瀬で遊ぼうか。魚も捕れるし海の上に浮かぶのも楽しいぞ」
「わぁ、楽しみです」
「何せ時間だけはたっぷりあるからな。明日でも明後日でも、好きな時に船を借りよう」
「はい。あ、でもあの海にも行きたいです」
「あの海?」
「はい。階段を下がった白い海です」
「ああ、そうだな。では明日は白い海。明後日は船にするか?」
「はい!」

大きな瞳が嬉しそうに輝いている。それは星の浮かぶ空の様で、見つめていれば吸い込まれそうになる。不思議な瞳だ。今となってはあのニセモノの色よりも漆黒の、吸い込まれそうな星空色の瞳の方が翔愛に良く似合うと思ってしまう。

「翔雅さま?」

じっと翔愛を見つめていたらまた首を傾げられた。

「いや、一緒に磯でも見に行くか。小さな生き物も沢山いるだろうからな」

小さく首を振って立ち上がれば翔愛も付いてくる。当たり前の様に翔雅の側に来る翔愛に手を伸ばせば、やはり当たり前の様に翔愛の手が重ねられた。一心に見つめてくる翔愛に微笑みを返しながら、どこまでも真っ直ぐな瞳に今日はずっと押されっぱなしだと、心の中で微かに苦笑してしまう。

「風が気持ち良いです。砂浜にもお花があるのですね」
「あ、ああ。そうだな。本当にこの島は花で沢山だな」

翔愛の視線の先には砂浜の端に咲き誇る小さな花がある。昔から、花の島と呼ばれるこの地には本当に花が沢山で、島そのものが花なのかもしれない。感心しながら歩いていれば、翔愛の手がぎゅ、と握ってきたから同じ強さで握り返した。すると、翔愛が小さな声を上げて笑う。

「僕が翔雅さまをひっぱっているみたいです」

そう。普段は翔雅が翔愛の手を引いているが、今は違う。少しだけ翔愛の方が先に歩いているから、今手を引かれているのは翔雅の方だ。

「そうだな。偶には翔愛に手を引かれるのも悪くないな」

本当に、翔愛に押されっぱなしだ。けれど、張り切り翔愛も可愛らしく、だいぶ逞しく見えた。






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