花咲く海で...11





星南に持たされた果物はどれも小さくて翔愛には丁度良い大きさの物ばかりだ。
籠に沢山入っていて、色も綺麗でふわんと甘い匂いがする。

「おいしそうです」

ほくほくと部屋に戻った翔愛は籠の中に入っていた小さな果物を一つ摘んで食べた。一口サイズの果物は赤い色をしていて、そのまま食べられるものだ。
すっぱいけれど、とても甘い。飲み込んで、もう一つ摘みながらリビングを抜けて寝室へ入る。

足音を立てない様に寝台へ近づけば、まだ翔雅は熟睡している様で微かに鼾が聞こえてきた。あんまり気持ちよさそうに眠っているから籠を抱えたまま寝台の端に座る。翔愛の重みじゃ寝台はビクともしないから、翔雅も気付かずに眠っている。

何だかこうして眠る翔雅を眺めているのも楽しい。
とても楽しくて、ちょっぴりお得な気持ちになってしまう。いつもはこの逆で、眠る翔愛を翔雅が眺めているから、翔雅もこんな気持ちだったのだろうか。

籠を置いて、そっと身を乗り出した。眠る翔雅を上から眺めて手を伸ばす。触れる先は朝日に輝く金色の髪。翔雅は良く翔愛の髪を梳いてくれるけれど、翔愛が翔雅の髪を触る事は無い。と言うより翔雅は大きいから翔愛の手が届かないのだ。
実は前々から触ってみたいと憧れていた髪に触れ、そおっと梳けば柔らかい手触りに顔が緩む。
さらさらと、何度か金色の髪を梳いて、それから眠る翔雅に口付けした。初めてだ。翔愛から翔雅に口付けするのは。少し乾いた唇を触れ合わせて、でも、それ以上は出来なくてそっと離した。

至近距離で見る翔雅は今日も綺麗な人だ。男らしく整った顔立ちが少し緩んで熟睡してる。今は閉じられている瞳はとても綺麗な森の色で、優しい光で翔愛を見てくれる。
早く起きればいいのに。でも、このまま寝せてあげたい気持ちもあって。


「こう言う気持ちを、ふくざつだと言うのでしょうか」


じいっと翔雅を覗き込みながらぼそりと呟いた翔愛は、そっと眠る翔雅の側に寝転がってぴたりと身体を付けた。

もう目は覚めているけれど、こうして翔雅にくっついていれば直ぐに瞼が重くなってくる。せっかく貰った果物のそのままに瞳を閉じた翔愛は、すぐに安らかな寝息を立て始めた。





流石に昨晩は飲み過ぎたか。怠そうに目を開けた翔雅は部屋の光を見てだいぶ寝過ごした事を知る。
日頃は忙しく働いている身だからここまで遅く起きる事も珍しい。休暇で気が緩んだのは己も一緒かと起き上がれば、側に翔愛が眠っていた。珍しい。翔愛もまだ眠っていたのかと寝息を立てる翔愛を見下ろして、首を傾げた。

「何で果物の籠があるんだ?」

そう、眠る翔愛の側には果物が盛られた籠がひとつ。けれど翔愛は気持ちよさそうに眠っている訳で、不思議だ。
ひょっとしたら先に一度起きたのだろうか。起こすのは少し躊躇われるが、もう昼前だから起こしても良いだろう。

「翔愛、起きてくれ」

肩に手を置いて揺さぶればぴくりと瞼が動いて、大きな瞳が開く。瞼が重たそうで少々気の毒だが、翔雅を見つけた瞳が嬉しそうに細まった。

「翔雅さま、おきました」

大きな瞳がまだぼんやりとして、嬉しそうにとろけている。何とも可愛らしい笑みで、翔雅も誘われる様に笑みを浮かべる。

「その様子だと先に起きていたみたいだな。俺に付き合ってくれたのか?」

寝転がったまま一心に翔雅を見上げている翔愛の頭を撫でればくすぐったそうに少し声を上げて翔愛が笑い、小さな頭を撫でている翔雅の手にそっと翔愛の手が重ねられた。

「翔雅さまを待っていました。一緒に朝ご飯食べようと思って。でも僕も眠っていました」
「そうか、待たせてしまったな」

そうして、そのまま身を屈めて口付けをひとつ。軽く触れ合うだけの口付けをして、鼻先にもひとつ。

「さっき、翔雅さまが眠っている時にも口付けしました。眠っている翔雅さまはとても綺麗でした」

唇を離して見つめれば翔愛が意外なことをさらりと言う。
眠っている間の事はもちろん翔雅の記憶に無い。少しもったいない事をしたと思うよりも、眠っている間に観察されたのだろうと言う、くすぐったい気持ちが全身に広まって、むず痒い。

どうも翔愛から見る翔雅と言う人は何か別の、とても綺麗なものになっているのだろう。誰にも理解できない感覚を持っている様で、翔雅を綺麗だと言う翔愛はとても嬉しそうで、うっとりとしていて、やっぱりむず痒い。

「そっ、そうか・・・」
「はい。とても幸せでした」

真っ直ぐに見つめて言われると今度は恥ずかしい。
照れ隠しにもう一度翔愛に口付けした翔雅はそそくさと起き上がって寝間着を脱ぎ捨てた。






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