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星降る庭で・番外編/城下町にて...05
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| 良く眠った様な気がする。 ぱちりと目覚めた翔愛は直ぐに目に入った色に驚いた。何時もの寝室でもリビングの色でも無い。素っ気ない茶色・・・木の色だ。 「起きたか?」 翔雅の声がする。視線を動かせば翔愛のすぐ側に翔雅が座っていて、優しく翔愛の髪を梳いてくれる。気持ちよくてうっとりと目を閉じれば苦笑する気配がして額に唇を落とされた。柔らかい感触にぱちりと目を開ける。 「起きました・・・ここは、どこですか?」 起き上がってみれば狭い部屋だと言うのが分かる。大きさは以前、翔愛の住んでいたあの小さくて薄暗い部屋と同じくらいだろうか。けれど空気は清潔で、開け放っている大きな窓からは海の風が気持ちよく入っているし、部屋の中も明るい。少し見渡せば翔愛が居るのは質素な寝台で、その他には寝台の側の小さなテーブルと窓際の机と棚だけだ。 「ここは、昔俺が住んでいた部屋だ」 「翔雅さまがですか?」 「ああ。俺はここで育ったんだ」 ふわりと、翔雅が柔らかく笑みを浮かべた。その表情はとても優しくて、でも少しだけ悲しい笑み。じいと翔雅を見上げていると翔愛の視線に気づいたのか、頭を撫でてくれた。 「俺は孤児でな。ここの両親に貰われたんだ。で、城に入るまではこの家で暮らした」 翔愛には少し難しい話かもしれないなと微笑みながらまた頭を撫でられて、頬に口付けされる。確かに翔愛には少し難しい。元から家族とか血縁とか、その辺りに疎いからよく分からない。けれど、栄と弥栄がとても優しい人だと言うのは分かるし、この小さな部屋が翔雅の暮らした部屋だと言うのも頷ける。だって、大きな窓から入る海の風があの王の部屋と一緒で、何故だかは分からないけれどもこの部屋からは確かに翔雅を感じる事が出来るのだ。 「天丸はこの家の隣の生まれだ。雷吾や倫斗、珊瑚も近所だな」 「みんな、近くなんですね」 「ああ。小さい頃は賑やかだったぞ」 そうしてまた、窓の外を見る翔雅は何だか遠くに居る人の様だ。置いていかれそう。思わず指先が翔雅の服を掴んでしまう。けれど翔雅は怒る事無く柔らかく微笑んで翔愛の額に小さな口付けを落としてくれて、それから、啄む様な口付けをしてくれる。 「さ、起きたんなら食事にしよう。下で手ぐすね引いて待ってるのがいるからな」 「はい。少しだけお腹すきました」 「そうだな」 きゅる、と翔愛のお腹が鳴く。薄っぺらいお腹を押さえれば翔雅がからからと笑ってそのまま二人で下に下りた。 お店のスペースとは別に自宅になっているスペースがあるとの事で、今度は自宅のリビングに通された。さほど広くもない、けれど落ち着いた雰囲気のリビングには背の低いソファとテーブル、その他の調度品が品良く並べられている。翔雅に手を引かれるまま腰を下ろせば弥栄が正面に座りながら用意してくれていた食事を振る舞ってくれる。まだ時間も時間なので軽い食事だ。暖めたパンにフルーツと飲み物が数種類。勧められるままに手をつければ何故だか褒められた。 「本当に可愛いわねぇ。ねえ翔雅、これからはもうちょっと帰ってらっしゃいよ」 もくもくと小さな口に一生懸命食べ物を運ぶ翔愛を眺めては弥栄がうっとりと溜息を漏らす。けれど翔雅は呆れた溜息を落としてがっくりと肩を落とした。 「だからなぁ。気持ちは分かるがそうそう帰ってこれるものでもなし、どうしてもと言うんだったら城に来れば良いだろう」 「だってお城って遠いし大きいんですもの。だったらこっちにいらっしゃいよ。街を一緒に歩きましょうね、翔愛ちゃん」 「・・・はい?」 どうやら一目で翔愛を気に入った様だ。にこにこと微笑む様は大変に嬉しい事なのだけれども、少々押され気味になる。第一翔愛には良く分からないから首を傾げればそんな仕草も可愛いわねぇとうっとりされた。 何だろう、弥栄と言う人は翔愛の出会った人達とはまた違くて、不思議だ。もくもくと果物を食べながら弥栄を見て翔雅を見れば大きな瞳が不思議がっている事が分かるのだろう。苦笑しながらも翔雅が翔愛の頭を撫でてくれる。 「まあ良い事なんだがなぁ。でも食ったら行くぞ。日が落ちると天丸が煩そうだ」 「はい。でもまだ明るいですよ?」 「少しは街を見ないとな。折角の大市なんだ。まだ何も見ていないだろう?」 そう言えばそうだ。あの騒ぎですっかり大市の事を忘れていた。 初めての市場を楽しみにしていたのだ。ぱっちりと瞬きした翔愛が嬉しそうに翔雅を見れば翔雅も嬉しそうに微笑んでくれる。 でも、ちょっと怖いかもしれない。沢山の人と露店はどうしても翔愛には慣れない。外に出るなんて本当に久しぶりの事なのに、またくじけてしまいそうな気もする。そうしたら、また翔雅に迷惑をかけてしまうかもしれなくて。 「大丈夫だ。もう外の奴等も大人しいだろうし、気にしなくて良いんだ。自分の見たい物だけを見れば良いし、何かあっても俺が側に居るだろう?」 翔雅を見上げたまま大きな瞳に心配だと映してしまったらしい。翔愛の瞳は良く物を言う。大きな瞳には口に出さずとも沢山の翔愛の言葉が浮かぶのだ。元から無口、と言うよりも喋る言葉の少ない翔愛だからこそ、なのかもしれない。 「いきたい、です」 楽しみにしていたのだ。改めて翔雅が約束してくれたのだ。嬉しくない訳がない。今度こそにこりと微笑んで翔雅を見上げればどうしてだか正面の弥栄が翔愛の頭をわしわしと撫でてくれた。 |
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