![]() |
|
星降る庭で...62 |
| 小さくて、とても大きな翔愛の決心は翔雅の目覚めと同時に流されてしまった。 いや、翔雅が目覚める前、まだ朝日が昇り始めた頃に天丸が静かに寝室に入って来た事で事態は急に動き始めてしまったからだ。 まだ夜明けと呼ばれる時間なのに既に身支度を整えた天丸は起きあがっている翔愛を見てちょっと目を見張り、すぐに笑顔になってすたすたと翔雅の元まで来る。 「おはようございます。随分早いですね」 朝日の中でも翔愛の顔色の良さは分かるのだろう。小さく息を吐いた天丸はそっと翔愛の乱れた髪を梳いてくれた。それから直ぐに真剣な表情に変わって翔愛を見て、それから翔雅を見下ろした。 「お二人にとって朗報になるかと思います。愛綺国から覇玖様がおいでになりました。至急お越し下さい。・・・その前に起きてください、翔雅様!」 覇玖。その名前にぴくりと身体を震わせる翔愛を後目に天丸は惰眠を貪る王を容赦なく叩き起こす。 「う、ん・・・何だ?天丸、か?・・・まだ早いだろう」 「何を寝ぼけているんですか。愛綺国からお客様がお出でになりましたよ」 「あ・・・?・・・・それは早すぎはしないか?」 「ウチの船団を舐めないでください。ほら、起きた起きた!」 ぱんぱん、と翔雅の事を叩きながら天丸は忙しく掛布を取り払ってしまう。一緒に翔愛も居たのだが天丸の取り払った掛布の勢いに一緒にころんと寝台に転がってしまった。 「天丸、翔愛まで転がすな」 まだ眠いのだろう。ううんと唸りながらも寝台に転がってきょとんとしている翔愛を翔雅が拾ってくれた。 ついさっきまで掛布に包まっていた身体はとても暖かい。軽い荷物を持つ様に持ち上げられて軽く抱き寄せられた翔愛はもう翔雅が起きる寸前の決心が消えかけている。 本当は、翔雅の目覚めと同時に告白しようと思っていたのに、もう、出来ない。今この状況で、翔雅だけでは無く天丸も居る状態でニセモノなんです、なんて言えなくなってしまった。 「翔雅さま・・・」 それでも言いたい。もう、翔雅を苦しめたくは無いし、何より、先ほど天丸が覇玖が来たと言っていたではないか。覇玖が来たのならば、きっと、翔愛がニセモノだと分かってしまう。この、足首に嵌った金色のわっかを外そうと翔雅達は願っているのだから。 「どうした?ああ、すまないな。朝早くから。身体はどうだ?何処か痛むか?」 それなのに翔雅は優しい表情で翔愛を心配してくれる。ん?と顔を覗き込まれて、思わず翔愛は視線を逸らしてしまった。 「・・・翔愛?」 その不自然さに翔雅は気づく。何時も、どんな時でも真っ直ぐだった視線が気まずそうに逸らされている。その違和感に。けれど時は待ってくれない。 「翔雅様、とにかく速くご用意なさって下さい!」 「あ、ああ。分かった分かった。朝から煩い奴だな」 「私が煩く無かったら困るでしょう。ほらほらほらほら」 「分かった分かった」 急かされるままに翔雅は翔愛を離してその場で着替え始めてしまった。天丸が用意した王の、純白のゆったりした服と、その上に羽織る衣が素早く着せられて、顔を洗うのだろう直ぐに翔雅と天丸は浴室の前にある洗面所へと消えてしまう。その寸前。 「翔愛、お前はまだ眠っていて良いぞ」 身体は洗面所に入って、顔だけを出した翔雅が笑いかけてくれた。その笑顔に翔愛は思い切って声を出す。 「僕は・・・ニセモノ、なんです」 「何か言ったか?」 でも、思ったより声は小さくて翔雅には届かない。 翔雅はまだ顔を出してくれている。 「翔雅さま、僕は、ぼくはっ」 ニセモノなんです。 本当は、こんな綺麗な色じゃないんです。 ずっと、ずっと翔雅さまに嘘を吐いていたんです。 けれど寝起きと言う事もあってか、翔愛の声は悲しい程に掠れてしまって翔雅には届かない。そんな翔愛に翔雅は少し考える仕草をしてから、すたすたと足早に翔愛の元へ戻ってきてくれた。そうして、泣き出しそうな顔の翔愛に優しい口付けがひとつ、落とされる。 「大丈夫だ。お前が案ずることは何もない。後で迎えを寄越すから大人しく待っていてくれ。その間に誰か寄越そう」 優しくて暖かい微笑み。大きな手がすっぽりと翔愛の顔を包んで、少しだけ撫でてくれて、でも、すぐに離れて翔雅は行ってしまった。 「しゅうが、さま・・・ごめんなさい・・・僕は、僕は」 違うんです。ニセモノなんです。僕は、本当は翔雅さまと同じ色なんかじゃない。忌み嫌われる闇を持ったニセモノなんです。 「・・・ごめんなさい」 もう翔雅に声は届かない。 けれど、翔愛の小さな声は寝室に何度も何度も木霊して、すぐに消えてしまった。 |
back...next |