星降る庭で...55



翌朝、金色の輪っかが天丸にも椛にも知れてしまった。
翔雅を含めた三人が怖い顔で顔をつきあわせている。
翔愛は一晩眠っても具合が良くなる事は無く、日の昇った今でも寝台に伏せたままで、翔雅達三人はリビングで難しい顔をしている。

「金色の輪っか、ねえ」

椛がふむと頷き、天丸は何やら唸りながら早朝、まだ眠る翔愛の元にこっそりと忍んで見た輪っかに思いを馳せる。どうも見た覚えがある様な気がするのだ。あの色と、外れないと言う特殊性。

「ああ、外せない様になっていると思うんだが・・・ああもぴったりとしているのは不自然だろう。何より驚く程に熱かった」
「だよな、確かに変って言えば変だよなあ」

ふうと息を吐いた椛が背中をソファに預ける。まさかこんな事になっているとは思いもしなかった。
昨日の時点で翔愛の顔色の悪さには気づいていた椛だ。しかし、もし足首の輪っかが原因なのならば今の時点で椛に出来る事は何もない。医者であるのに苦しむ人を助けることも出来ない。嫌な感じだなと目を伏せた。翔雅も辛そうに表情を歪め、けれど何も言わない天丸に首を傾げる。

「天丸?」
「あ、ああ、すいません。何処かで見た事がある気がするんですが・・・何処でだったかが思い出せなくて」

以前何かで見た事がある気がする。聞いたことがある気がする。
朧気な記憶を掘り返している天丸に翔雅は眉間に皺を寄せ、椛は変わらずぶつくさと口を開いている。

「俺はお守りみたいなモンだと思ってたんだけどな」

初めて見た時に感じた違和感はあの輪っかだったのだろうか。けれど国により、地方によりああいった形式のお守りは良くある事で、ふうと溜息を落とした椛に、けれどその言葉を聞き止めたのは天丸だった。
椛の言葉にはっと目を見開く。

「お守り・・・・そうだ!思い出しました!あれはお守りでは無い、あれは『言葉の約束』と呼ばれる魔術の道具です!」

背を起こして天丸にしては珍しく声を荒げた。
その剣幕に翔雅も椛も驚いて身を起こす。

「魔術だと?」

低い声で唸る翔雅は魔術の類が好きでは無い。
この世界に居る魔術師と呼ばれる人種は一様に怪し気な雰囲気と人を人とも思わぬ態度で、その上怪し気な術を使ってはしばしば人々を混乱に陥れる人種だからだ。
まあそのほとんどが天候や未来のちょっとした道筋を占うだけの者なのだが、いかんせん、黒い魔術師の方が人々の記憶に刻まれやすい。当然椛もあまり良い感情は持って無く、翔雅程では無いがやはり難しい顔になる。

「どんな物なんだ?」
「・・・詳しくは・・・、以前誰かに聞いた事があるだけで」
「誰だ?」
「それが、あまりたわいもない事だったとしか」

折角掘り起こした記憶だが、それからが思い出せない天丸に翔雅と椛が詰め寄る。掴んだ糸口を離さないとする気迫が恐ろしい程で、また記憶を掘り返しながら天丸がその迫力に一歩引いた時、王の部屋を訪れる影があった。

「どうです?翔愛様の様子は」

倫斗だ。彼も一応は翔愛の心配をしているのだろう。
何処となく悪い顔色に小さな声。今までが今までだ、もしや翔愛が寝込んでしまったのは自分の所為なのかもしれない。そう思っているのが顔に出ている。
何時になく不安気な様子の倫斗に、彼の訪れで少し落ち着いた翔雅がソファに沈みなおして倫斗を見やる。

「倫斗、来たのか」
「そんな嫌そうな顔をしないで下さい。私が心配してはいけませんか?」
「いや、誰もそんな事は言ってないだろう」

確かに言ってはいないのだが視線が全てを語っている。随分と厳しい教師だった倫斗に少々八つ当たりまがいの視線を向ける翔雅に苦笑したのは椛で、困った顔をしたのが倫斗で、天丸は。

「ああ!」

また叫んだ。
思わずびくりと身体を震わせる三人だが天丸はすくっと立ち上がって倫斗に詰め寄る。

「そうですそうですそうです!誰って珊瑚ちゃんですよ!彼女も魔術師じゃないですか!」
「妹が何か?」
「今からすぐに珊瑚ちゃんを連れてきます!」

突然詰め寄られて訳の分からない倫斗が一歩引くが天丸はその分詰めてじっと倫斗を見上げた後、くるりと身を翻して部屋を出てしまう。
何時になく早足な天丸に呆然とするのは倫斗だけだ。
翔雅は天丸を見届けると同じ様に立ち上がって寝室へと行ってしまった。
当然、訳が分からず残された倫斗は呆然としたままで。

「・・俺が説明してやるから。とりあえず、座っとけ」

滅多に見られない倫斗の呆然とした姿に椛が苦笑しながら立ち上がると心なしか落ちている倫斗の肩をぽんぽんと叩いた。





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