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星降る庭で...48 |
| 相変わらず日に何度か翔愛の様子を見に来てくれる椛は、これまた相変わらず窓辺に張り付いている翔愛を見ると深い深い溜息を落として小さな翔愛を摘み上げた。 「だから窓辺は駄目だって言ってんだろーが、姫さんよ。ったくもー。全然日焼けが治りやがらねえから窓辺に張り付くのは、し・ば・ら・く・禁止だ」 椛からして見れば小さな翔愛の身体は片手で運べる軽さなのだろう。ひょいと持ち上げられて日の当たらないソファに柔らかく落とされると顰めっ面で睨まれてしまった。 「・・・だめ、ですか?」 「だーめーだ。いっくら薬塗っても日陰に居てもらわないと治らないんだっつーの」 「・・・だめ、なんですね」 窓辺は翔愛にとってはとてもとても好きな所なのだ。しょんぼりと俯いてしまう翔愛にそれでも日焼けが気になる椛は顰めっ面を崩さずに持ってきていた日焼け止めの薬を取り出した。太い指で器用に赤くなった頬に薄く塗っていく。 「ほら、頬が熱いだろ?このまま放っておくと火傷になるんだ。暫くは辛抱してくれ」 「・・・はい」 しょんぼりとしながら椛の手に逆らう事無く薬を塗りたくられていれば、そんな2人のやりとりを聞いていたのだろう。隣の執務室から翔雅がやってきた。 怖い顔では無いけれど、笑顔でも無い、微妙な表情の翔雅は翔愛の隣にどすりと腰を下ろして小さな溜息を落とした。 「だったら食事の時間を外にすればどうだ?少ない時間だがずっと中に居るよりは良いだろう」 そうして大きな手で翔愛の頭をちょっとだけ撫でてくれた。翔雅の重みで少しだけ翔雅の方に傾いた翔愛はぱちりと瞬きをして翔雅を見上げる。 「ご飯を、そとですか?」 「ああ、それくらいなら良いだろう。俺も息抜きになるしな」 はあと溜息を落とすその表情は少し疲れが見えている。そんな翔雅を見上げたままの翔愛は何を言うでも無くただじっと見上げているだけだったのだが、まだ薬を塗り終えていないからと椛に顔を戻されてしまった。 「ま、それくらいならいいだろう。あんま長い時間は駄目だぜ?」 翔愛をちらりと睨んでから翔雅をぎろりと睨む椛に翔雅も同じ強さで睨み返すと今度は天丸が来て翔雅の隣に音もなく立った。その気配に翔雅の肩がぴくりと動く。 「そうですね、せめて食事の時間くらいは息抜きも必要でしょうが。でもね翔雅様、まだお仕事の時間なんですよ。ほらほら、行きますよ」 そうして細い腕に反して力強く翔雅の腕を掴んで持ち上げてしまった。思わずすごいなあ、なんてぽけっと見てしまうと憮然とした表情の翔雅ががっくりと肩を落として執務室に戻っていった。 まだ仕事の途中だったのだ。それなのに翔愛の所に来てくれた。 何となく嬉しくて、でも直ぐに離れてしまった翔雅の温もりにほんの少しだけ寂しいな、なんて思ってしまう。 「どした?姫さん」 「なんでも、ないです」 でも、そんな気持ちをどう言っていいかなんて翔愛には分からない。ただ執務室に行ってしまった翔雅の背中を見る事しか出来ない。どことなくしょんぼりとする翔愛に椛はくすりと笑みを落として翔愛の頭をちょっとだけ撫でてくれて、そのままぱちりと片目を瞑ると椛も執務室へと行ってしまった。 「?」 どうしたんだろうと、わしわし歩く椛の後ろ姿を見送ってしばらくすると今度は椛では無く翔雅が顔だけ出して翔愛を手間適している。 「翔雅さま?」 「翔愛、こっちにこい」 どうしたんだろう?更に首を傾げながらも呼ばれたからと腰を上げて執務室までの短い距離をひょこひょこと歩いた。昼間のうちに執務室に入るのは初めてかもしれない。乱雑に散らかった書類の山と翔雅の机に天丸の机。 そして。 「椅子を置いた。暫くはここで絵本を読んでいろ。向こうに一人で居るのもなんだろうからな」 翔雅が顎で指す先には誰のものでもない、いや、翔愛の椅子が用意されていた。それは翔愛が座るには少し大きな椅子で、外を眺めるのを禁止された翔愛の為に椛が取りなしてくれたものだった。 「僕の、ですか?」 誰かに何かを用意してもらうなんて初めてだ。じわじわと嬉しくなって翔雅を見上げれば思いの外優しい笑みが返ってきて、ついでにと言わんばかりに頭を撫でられた。 「そうだ。ここなら俺も天丸も居るからな。何か分からない事があったら聞け」 ずっと一人だけの翔愛を気遣ってくれたのだ。誰とも喋る事無く動く事もなく、ただ静かに外を眺めているだけだった翔愛のたった一つの楽しみを奪ってしまったのだから、と翔雅は翔愛を椅子の前まで連れて行ってくれる。決して立派な椅子では無いが、いつも翔愛が使っていたクッションが椅子の上に置かれていて、本当に翔愛の為に用意してくれた、翔愛の為の場所。 「あ、ありがとうございます」 どうしてこんなに嬉しいんだろう。じわじわと浮かぶ喜びはあっと言う間に膨れあがってこぼれ落ちそうで、案内してくれた翔雅の腕を思わずきゅっと掴んでしまえば、それでも翔雅は笑うだけでもう怖い顔はしなかった。 |
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