星降る庭で...45




窓から見る外は綺麗だ。
そう言えばこうしてぼんやりと外を見るなんて何時以来だろうと翔雅は思う。
隣には飽きもせずに外を眺めている翔愛が居るが、不思議な事にもうその存在を疎ましいと思う事はなく、小さな子供が傍に居る様に感じる様になっている。

腰まで伸びている長いさらさらの金の髪。深い深い森の瞳。同じ色なのに、翔雅とはまた違う輝きを持つ色。
特別な色だと思い込んで辛くあたったのはまだ少し前の事なのに、今では辛くあたった罪悪感すら感じる。それだけ、この翔愛と言う存在が翔雅の中に入り込んでいるのだろうか。けれど恋慕を抱く事も無く、しかし、傍に居る事を嫌だとは思わない。

「あ・・・とりが、たくさん・・・」

ぼんやりと外と翔愛を眺めていると小さな声が聞こえる。その声に意識を戻して空を見れば青い空に白い鴎(かもめ)が浮いていた。

「あれは鴎だな。海には良く居る鳥だ。船にも良く居る」
「かもめ、きれいです」

考えるより早く翔愛の求める説明をすれば子供らしい答えが返ってきて笑みを誘う。
けれど、一度教えた物を一度で覚える翔愛は子供らしいと言う言葉とは違い、思いの外賢い様だ。それは天丸も椛も認める事で、改めて随分とこの子供を見くびっていたらしいと、今度は苦い笑みが浮かんでしまう。

「翔雅さま?」

すると翔雅を見上げていた翔愛に首を傾げられてしまう。僅かな表情の変化も見逃さないと言う事も極最近知った事だ。こぼれ落ちそうな程に大きな瞳がじっと見上げてくる。
不自然にも感じられる、あまりにも真っ直ぐな視線にも、もう慣れた。

「いや?何でもない。ああ、彼処に浮かんでいるのが羽胤の船だ。白い帆が大きいのが特徴だ」
「船・・・大きいです」

翔雅が示した先にあるのは羽胤国の帆船だ。白い帆の形状によりどの国の船だか分かる仕組みで、羽胤国の船はどの国よりも綺麗だと自負している物だ。そんな船でも翔愛に掛かればただた感嘆するだけのものになってしまうのも不思議と楽しく思う。率直な感想にくすりと笑みを漏らした翔雅に翔愛もうっすらと笑みを見せて日に焼けて赤くなった頬を見せながら翔雅を見上げた。

昼の光に輝く金色の人。とても大きくて綺麗な人。
それは翔雅を彩る色だけじゃなくて、顔も身体も身のこなしもとても綺麗なのだ。
こんな綺麗な人は初めて見る。

ここに来てようやく翔雅全体を見る余裕が出来た翔愛は近い距離に居る翔雅を見上げて小さな小さな溜息を落とした。汚い色の翔愛とは違ってとても綺麗な翔雅。緩く纏められた金色の髪も、森の色の瞳もとても綺麗だ。翔愛のニセモノの色なんて足下にも及ばないくらいに、綺麗だと思う。
兄の覇玖とは全く違う大きな身体に精悍な顔立ち。鍛えられた鋼の様な身体付きに王者の風格。もう怖くはない翔雅を改めて見ればとてもとても綺麗な人に見えるのだ。

じっと、じーっと翔雅を見つめて翔愛は思う。
こんな綺麗な人が側に居て、翔愛を受け入れてくれている。まだ戸惑う事の方が多いけれど、それでも、翔雅と言う大きな存在は翔愛にとって恐怖の対象では無い。ただ、側に居るけれど何処か遠く、物理的な大きさ以外にも翔愛にとっては余りにも大きな存在で。

「ん?何だ?」

あまりにも見過ぎていたのだろうか。外を眺めていた翔雅が翔愛の視線に気づいてしまって翔愛を見下ろしてきた。それでも視線を逸らすと言う事を知らない翔愛はじっと大きな瞳で翔雅を見上げる事しか出来ない。翔雅もまた翔愛をじっと見下ろしている。初めの頃の怖い視線では無い、何処か柔らかさを含んだ綺麗な瞳の真っ直ぐな視線。何も言う事が出来ずにどれくらい見つめ合っていたのだろうか。こんなに長い間人の、他人の瞳を見つめる事の無かった翔愛が戸惑いを感じ始めた時、翔雅の表情がふ、と緩んだ。

「お前は何時も真っ直ぐなんだな」

それはとてもとても綺麗な微笑み。顔全体で微笑む事はしないけれど、目元と口元だけで浮かんだ微笑みはとても綺麗で、知らず翔愛の胸がとくんと音を立てた。





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