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星降る庭で...42 |
| 一緒の寝台。翔雅と一緒に眠る夜。 また、初めての体験だ。 もちろん生まれた時はどうだか知らないが、翔愛にとって眠ると言う事は1人で眠る事だ。誰かと一緒なんて考えた事もない。だからなのだろうか、夜も早くに寝台に潜り込んだけれど、まだ翔雅は隣の部屋で仕事をしているけれど、どうにも寝付けない。あのソファだったら周りに誰が居ても勝手に眠くなったのに、寝台に移った途端、眠気が何処かに行ってしまったのだ。 あの翔雅の笑顔を見た後だからなのだろうか、不思議と恐怖と言うものは全く無い。けれど、戸惑いは沢山あって、眠れない。大きな寝台は見た目通りふかふかで、寝心地は良さそうだ。あの薄暗い部屋の寝台とは比べるまでもない。でも翔雅も一緒、そう聞いた翔愛は大きな寝台の隅っこに申し訳なさそうにちんまりと寝転がっている。どうにも身体を休める事が出来ない。僅かな息苦しさを感じて少しだけ身じろぎすれば固まっていた身体がほんの少し解れた。でも、まだ身体は固まったままだ。 どれくらいそうしていたのだろうか、寝室の扉が開いて翔雅が来た。すたすたと大きすぎない足音は翔雅の足音。これが椛だともっと大きくて、天丸だと足跡は微かだ。 「何だ、まだ寝ていなかったのか?」 少し笑いを含んだ声の後に翔愛がちんまりと転がっている寝台がきしりと音を立てた。翔雅が寝台に腰掛けたのだ。そして、大きな手が翔愛の頭を柔らかく撫でてくれる。けれど、慣れない寝台に転がる翔愛は頭の先まですっぽりと掛布に潜っているから、薄い掛布ごしの温もりだ。 「翔愛?まだ寝ていないんだろう?」 翔雅の声は柔らかい。まさかここ、寝室でそんな声を聞くとは思っていなかった翔愛だが、緊張している身体はなかなか言う事を聞いてはくれず、掛布から出る事も出来ない。だから、翔愛は小さな声を出す。 「きんちょう、して・・・眠れない、です」 くぐもった掛布越しの固い声に翔雅の苦笑する気配がした。怖さは無いけれど戸惑いが大きすぎて、しかし翔雅は苦笑したまま翔愛の掛布を少し取ってしまう。 少しだけ剥がされた掛布から熱の籠もった掛布の中に居た、戸惑いを浮かべる大きな瞳と少し赤くなった頬が現れる。 寝室の灯りは既に柔らかく落とされていて突然掛布を剥がされても眩しくはない。けれど突然の出来事に翔愛は小さな悲鳴を喉の奥で上げて固まってしまう。心臓が嫌な音を立てるのに翔雅は笑みを浮かべたままそっと手を伸ばして翔愛の頬を撫でてくれた。 「まあ無理もないか。しかし今夜は冷えるから我慢しろ、時期慣れるだろう」 柔らかい翔雅の微笑みは見慣れなくて、じっと見ていると少しだけ翔愛の心が温かくなる。どうしてだか、翔雅の笑みは翔愛を安心させてくれる。少しの間だけ翔愛の頬を撫でていてくれた翔雅はすくっと立ち上がって次々に服を脱ぎ出す。そんな仕草も翔愛には見慣れないものだから思わず観察してしまうが翔雅は何の気にもせずに下履きだけの姿になって寝間着をその上にばさりと羽織った。 寝間着は皆同じ形なのだろうか、翔愛の寝間着も翔雅の寝間着も真っ白な前あきの着物で簡単な造りのものだ。翔愛は毎日天丸に着せてもらうけれど、翔雅は1人でさくっと着終えると寝台の端を捲った。 「そんな端に居たら落ちるぞ」 言いながら寝台に潜り込んできた翔雅は端っこに居る翔愛を捕まえてしまう。大きな手に捉えられてびくりと身体を震わせても離してはくれない。 「ほら、こっちに来い」 怒っている声では無いから怖さは無い。あっという間に大きな腕に引き寄せられた翔愛は驚く間もなく翔雅の腕の中に居て、感じたことのない温もりに包まれてしまった。 「しゅ、翔雅さま・・・」 驚きの声を上げても翔雅はくつくつと笑い声を上げるだけだ。こんな時、翔愛の中には抵抗すると言う言葉は無いから為すがまま翔雅の腕の中に収まっていると笑い声を上げ終わったのだろう、翔雅の大きな手が翔愛の長い髪の毛を梳いた。 「誰かと共に眠るのは初めてか?」 さらさらと髪の毛が翔雅の手をすり抜けて、少しだけの灯りに金色の髪の毛が反射して柔らかく光る。その光は翔雅の腕の中にいる翔愛には見えないけれど、髪の毛を梳いてくれる感触が気持ち良い。 「はい、僕は1人ですから」 断定の言葉に翔雅の手が少し止まる。しかし直ぐに大きな手は翔愛の頭を優しく撫でてくれた。 「そうか、1人か、俺も随分1人が長かったからこうして誰かと眠るのは久しぶりだ」 翔雅の言葉は難しい。そんな事を思ってしまった翔愛だけれども、何となく言っている意味は分かる。けれど翔愛には何て答えたら良いか分からなくて黙っていると、翔愛の頭から翔雅の手が離れて、するりと翔雅の腕の中に居る翔愛の頬に落ちてきた。手の平の動きに逆らう事無く顔を上げた翔愛に翔雅は薄闇の中で優しい笑みを見せる。 「おやすみ、今宵は良い夢を」 静かに低い声で語られたのはどの国にもある在り来たりな挨拶だ。そうして、言葉が終わると同時に翔愛の額に柔らかい感触が落ちた。 「・・・いまのは、なんですか?」 翔愛には聞いたことのない呪文の様な言葉だ。首を傾げて額に落とされたものも分からず翔雅をじっと見れば翔雅が何とも言えない表情になる。それすらも分からない翔愛に翔雅は苦笑して翔愛の背中に腕をまわした。 「寝る前の挨拶だ。明日から翔愛も言ってみると良い」 挨拶。それは翔愛にとっては縁の無かったもの。 これが眠る前の挨拶なんだと感心しながら翔雅の腕の中に収まる翔愛に瞳を閉じた翔雅はあっという間に寝息を立て始める。あまりの早さに驚いた翔愛だけれども、翔雅の腕の中が暖かくて眠る前の挨拶を心の中で反芻しながら何時の間にか深い眠りについていた。 |
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