星降る庭で...41



ふかふかの、ふわふわ。
あの狭く薄暗い部屋ではこんなふかふかもふわふわも無かった。おかしいな、そう思った翔愛はゆっくりと目を覚ます。意識を浮上させて、視界に真っ白い布が映った所で今居る場所を思い出した。此処は翔愛の故郷では無い。翔雅の国、羽胤国。此処は王の部屋のソファだ。けれど。

「あれ?」

ぱちりと目を開けた翔愛は戸惑いの声を漏らす。だって、ここはソファでは無い。ソファにしては広すぎて、寝心地が良い場所で・・・怖い場所、翔雅の寝台だった。
真っ白いシーツと掛布。全てが王の寝室らしく立派な調度品で整えられているが、それでもぎらぎらと光る事は無く上品な造りの、しかし翔愛にとっては怖い所。知らず記憶がよみがえる。あの、怖くて痛い記憶。

「・・・あ」

声が震える。掛布を握りしめてどうしてここに居るのだろうと視線を巡らせれば、翔愛が起きた気配に気づいたのか、隣の部屋から翔雅が顔を出した。

「起きたか。良く寝ていたからこっちへ運んだんだ」

怖い人。けれど今の翔雅は笑顔では無いがとても優しい顔をして翔愛を見ている。思い出した記憶と現実の差に翔愛は一瞬混乱するものの、足首の痛みがすぐに現実を思い出させた。

「翔雅さま・・・」

ぼんやりと見上げながら無意識に手が足首をさすった。断続的に痛む足首は決して悟られてはいけないもの。それは意識するよりも前に翔愛に染みついているから、意識して痛みを忘れて翔愛は握りしめていた掛布を離して、足首からも手を離した。

「どうした?熱いか?少し日に焼けているから肌が傷むかもしれんな。今椛が来るから待っていろ」

翔雅は優しい人。いつの間にか怖い人と言う気持ちが無くなって、今の翔雅は優しい人になっている。
それは翔愛がこの国に来た複雑な事情故だけれども、翔愛にとっては関係ないことだ。ただただ怯えていた少し前の記憶はまだ消えてはくれないけれど、今の翔雅は優しい人。
心配そうに少しだけ表情を変えた翔雅がずかずかと中に入って翔愛がちょこんと座っている寝台の端に腰掛けた。そして、大きな手を伸ばして翔愛の頬にそっと触れてくる。

「ああ、少し熱いかもしれんな」

日の光に当たりすぎて熱を持った頬に冷たい翔雅の手は気持ちよくて、少し目を閉じた。すると翔雅の苦笑する気配がする。

「もうすぐ椛が来るから待っていろ。それと、」

僅かに身じろいだ気配に目を開ければ翔雅がやっぱり苦笑して翔愛の頬から手を離した。離れて行く気持ちよさに少し残念に思うと表情に出たのだろうか、翔雅が低い声で笑う。

「今日からはここで寝ろ。いい加減あのソファじゃ狭いだろう」
「・・・ここで、ですか?」

驚いた。まさか翔雅がそんな事を言ってくれるとは思いもしなかったのだ。びっくりして目を見開けば寝台から立ち上がった翔雅が翔愛に向かって笑顔をくれる。

「ああ、と言っても俺も一緒だが。ま、広いし、もう何もしないから安心して寝ろ」

少しだけ苦い笑顔。翔雅にもまだあの記憶は新しい記憶だ。何も知らない無知な子供を傷つけた。普段の翔雅であれば有り得ない事だったが、それも複雑な事情故。けれど、翔愛には何も関係の無い事だと今では分かっている。まだ眠たそうに、それでも微かに懐いてくれていると分かる翔愛の態度に少しだけ、心の中にくすぐったいものが芽生えた。

「でも、僕が一緒だと、せまくなりませんか?」

確かに翔雅の寝台は広いけれど、それでも翔愛と翔雅ではいささか狭い様に思ってしまう。今だって確かに広いけれど翔愛が寝ているだけで寝台の半分は無くなってしまうのだ。
ただ思った事を口にしただけだけど、翔雅は翔愛の言葉にぱちりと目を瞬いて、今度は声を出して大笑いした。

「・・・翔雅さま?」

初めて聞く、翔雅のこんな大きな笑い声なんて。驚く翔愛に翔雅はひとしきり笑うと寝台をぱん、と手の平で叩いて翔愛の頭をくしゃりと撫でた。

「そんな細かい事を気にするとはな。大丈夫だ、多少狭くとも寝台から落ちる事は無いだろうし、何よりお前は小さいんだ。全然狭くは無い」

まだ声が笑っている。けれど、こんなに可笑しそうに笑う翔雅を初めて見た翔愛はただただ驚くだけで、けれども、そんな翔雅の表情に翔愛の心の中にも何か違うものがひっそりと生まれた。





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