星降る庭で...23



扉の向こうから軽やかな軽い声がぽつぽつと聞こえてくる。
耳に入る楽しそうな声に苛立った表情のまま手に持った書類を丸めて部屋の隅に投げつけた。
全く人の事をなんだと思っているのだと椅子から立ち上がった翔雅はそれでもリビングに入る事はなく再度椅子に沈んだ。

不思議な存在だと思う。あの翔愛と言う子供は。
あれほど嫌悪を抱いていた天丸もたった数日では内心はどうかは分からないがすっかりあの子供の言いなりと言うか下僕だ。椛も何やかんや悪態を吐きつつも接する笑顔は優しい色で酷く甲斐甲斐しく世話をしている様子で。つまり、何時までも意地を張っているのは翔雅一人、と言う状況になってしまったのだ。

意地を張る。そんな言い方をしているが翔雅の思いは深く暗い。
当事者だからこその悩みと想いがあるのだが今のところそれを聞いてくれる者も無く、何とも不甲斐ない王とされている。それもあの子供を安心させる為の言葉なのだろうが、ほんの少し、少しだけ、腹が立つとも思う。詳しい理由を翔愛に話す事は無いがそれでも腹が立つのは立つのだ。

「・・・ちっ」

普段は吸わない煙草を引き出しから取り出して荒々しく火をつける。
書斎に着いている小さな窓を開ければ潮風が吹き抜けて部屋の中の書類を鳴らした。
その間も隣室からは軽やかな天丸の声と何処か戸惑いながらも一生懸命に答える小さな声がしている。その声を聞いているだけなら楽しそうだ、と思える。けれど翔雅は楽しくない。

久々の煙草は酷くキツく感じて一口だけを吸い込んで止める。
小窓から火のついたままの煙草を投げ捨てて結わえてあった髪を解いた。

同じ色。金に輝く神々しい色。この大陸には良くある色だ。
瞳の色も然り、良くある色だ。それなのに何故同じ色だからと言うだけでこれほどまでに腹が立つのか。・・・それだけまだ傷が痛むと言う事か。
一生忘れるつもりはない。けれど、まだ思い出せない。

「どうすれば・・・いいのか」

思いがけず漏れた声は頼りない声だった。
大の大人が情けない。自嘲するもどうにもならない気持ちが重く沈んでいるのは事実だ。
掛け替えのない光り輝く想い出。未だにしがみついてる哀れな孤高の王。
・・・情けない。

「どうしたものかな」

誰に言うともなく呟けばまるで翔雅の言葉を見計らった様に扉の外から軽い声がした。

「翔雅様。お腹空きませんか?」

声と共に入ってくる幼馴染みに翔雅は苦笑するしかない。

「王に向かってお腹空いた、は無いだろう」

軽い口調に呆れる仕草を見せながらも翔雅は足を動かして天丸の方へと歩み寄る。
何時までも子供の様に駄々を捏ねても仕方がない。

「飯、何だ?」

扉の所で立ち止まる天丸を追い越してリビングに入れば背後からまた軽い声が翔雅の背中にあたった。

「豪華ですよー。ぜーんぶここ最近いぢけてる翔雅様の好物です」





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