![]() |
|
星降る庭で...22 |
| 口に含むとじんわりと甘い。羽胤特有の果実、ルタルンは黄色い皮と白い実を持つ羽胤の中では一般的な果物だ。けれど翔愛にとっては初めて食べるもの。いや、口にする全ての物が始めての物ばかりでただ食事をすると言うだけでも酷く体力を使う。それでも甘い食べ物は嫌いでは無くて、口に含んだ甘さに嬉しくなる。元から小食な翔愛には天丸が持ってくる食事の半分も食べ終える事が出来ない。それを申し訳無く思うものの一度無理して半分以上食べた後思い切り吐いた上に熱まで出してしまってから決して無理して食べるなと椛から厳命されている。だからどんなに食事が多くとも翔愛の食べる量はほんの僅かでしかない。 「美味しいですか?」 幸せそうな表情を見せる翔愛に天丸も笑みを浮かべている。見られてた。くすくすと笑う天丸に翔愛はほんのりと頬を染めて、けれど視線は天丸に向けたまま小さく頷いた。 「良かった。それはルタルンと言う果物ですよ。羽胤の特産の一つです。他にも果物は沢山ありますから沢山食べてくださいね」 「はい。ありがとうございます」 うっすらと頬を赤く染めながらはにかんだ笑みを見せる翔愛に天丸も笑みを返して食事を続ける。にっこりと微笑む天丸の表情は翔愛の兄、覇玖に似ているからなのだろうか。安心できる微笑みなのだ。こうして2人で取る食事も両手で数える数になった。ほとんどが天丸と2人きりで取るのだけれども椛も何度か一緒に食事を取っている。天丸と椛の会話は翔愛が口を挟む余裕もなくずっと2人で楽しそうに喋り続けている。それを聞いているだけだけれども翔愛にとっては初めての経験の一つだ。早口で喋り合う2人を見るのが楽しい、と思ってしまう。それ程天丸と椛の口調が砕けたものだったからでもあるが。けれど。 「あの、天丸さま・・・」 口の中にあったルタルンをようやく飲み込んだ翔愛がおずおずと視線だけを部屋の奥、寝室に続く書斎に向ける。天丸も言いたい事は分かっているから片目をぱちんと閉じて表情を悪戯っ子に変えた。 「大丈夫ですよ。良い年こいたでっかい大人なんですから。お腹が空けば勝手に出てきますって」 「でも・・・」 心配気に視線を向ける書斎。その中には不機嫌な表情の翔雅が居るのだ。 翔愛が羽胤で過ごす様になってから数日。不自然な程に翔雅は翔愛の前に姿を現そうとはしない。初日の衝撃で無意識に翔雅を怖い人だと思ってしまっているのだが、この数日何度か天丸や椛から話を聞いて実はとても偉い人なのだとも教えて貰った。けれど、翔愛の前に姿を現そうとしない翔雅はやはり怖い人なのだと翔愛の中にインプットされてしまっている。現に今も食事の時間だと言うのに書斎に籠もったきり出てこない。本当は翔愛と一緒に食事を取るのだが、一緒に食事をした事はまだ無い。それだけ嫌われているのだろうかと悲しくなるけれど、翔愛の存在を認めないと言い切った翔雅の言葉は翔愛にとっては当たり前で、けれど悲しい気持ちは確かにあって。 「お腹、すかないのでしょうか・・・」 嫌われているのでしょうかとは聞けずに少しはずれた事を呟いてしまう。始めて視線を天丸から離して俯く。沈んだ表情に天丸は翔愛に分からない様に溜息を落とすと自分の席から移動して翔愛の隣に腰を下ろした。 「戸惑っているんだと思いますよ。翔愛様も戸惑っているでしょう?」 それは言外に翔雅も翔愛と同じだと言っているのだ。 「翔雅さまも・・・?」 翔愛と同じなのか?そんな事は無いと思いつつも意外な言葉に天丸を見れば優しい微笑みが翔愛を見つめている。 「そうです。翔雅様も突然でしたからね。まだいろいろ迷っているんだと思いますよ」 慰める様な言葉。けれど翔愛には気づかない、天丸が本質を隠して避けた事に。 天丸も翔愛を認めた訳では無い。天丸にとっては翔雅の気持ちが一番。この幼くか弱い存在はずっと下の位置にあるのだから。けれど何時までもこのままで良いとは思えないのが一歩退いた傍観者であり大人でもある天丸の意見。仲良くしろとは口が裂けても言えないけれど、少しくらいは良いのではないかとこの数日で知った翔愛の真っ白な性質を見抜いた天丸の気持ちだ。 「だからもうしばらく待ってあげましょう。そのうちお腹が空いて出てくるでしょうから」 こんな言い方をすると翔雅が拗ねた子供の様な気がしてちょっとだけ楽しい。 首を傾げる翔愛に笑いかけながら天丸は心の内で声を上げて笑った。 |
back...next |