星降る庭で...21



翔愛の寝場所は王の寝室、リビングにあるソファに決まった様だ。
本来ならば翔雅と共に寝室にある寝台で眠るのだがあの場所は翔愛に取って辛いだけの場所。寝室に入るだけで勝手に震えてしまう翔愛に翔雅も天丸も無理強いはせずソファに幾つかのクッションと毛布を置いてくれた。小さな身体の翔愛はソファでも十分で(ソファでもあの狭く薄暗い部屋の寝台よりは立派だった)概ね眠る事に関しては快適だと言えた。

翔雅に蹂躙された後、3日寝込んだ。傷と精神的疲労により発熱はしたがそれも収まり毎日顔を見せる翔雅を筆頭に優しい笑みを見せる天丸や椛の存在に少しずつ人と接することが無かった翔愛も慣れていった。
ようやく身体を起こせる様にもなり、表面上、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる天丸には一番懐いている様に見えた。忙しい天丸だが翔愛の素性を探るために本人の監視も含めていろいろと世話を焼いている。椛もいつの間にか翔愛の主治医に決定された様で嫌々ながらも毎日翔愛の元に顔を出していた。

「翔雅さま、天丸さま、椛さま・・・」

幼い様子で指折り数える名前。全てにたどたどしく様を付ける翔愛は何処か嬉しそうに頬に赤みを刺している。ようやく起きあがれる様になり、ふかふかのソファに身体を沈ませながら天丸に教わった名前を一つ一つ確認していく。翔愛にとっては人の名前を覚えるのは兄である覇玖に続いて二度目の事。ただ名前を覚えるだけだけれども、嬉しい。主に翔愛の世話をしてくれている、長い茶色の髪の毛に同じ色の瞳を持つ穏やかな笑顔を見せてくれるのが天丸。毎日顔を出して翔愛の傷を見てくれるのが医者である椛。そして、この国の王で翔愛の結婚相手でもある金色の髪に深い森の色の瞳を持つ・・・怖い人が翔雅。1人1人の名前を確認しながら指折り数える。こんな事、愛綺に居た時には無くて少しだけどきどきする。たどたどしく名前を声にすれば天丸が苦笑しながら笑みを見せてくれた。こんな風に側に居てくれる人が居るのもはじめて。

「いや、私と椛殿に様はいらないですよ」
「そう、なのですか?」

じゃあ何て呼べばと天丸をじっと見ればそのままでもいいですと返されてしまった。
こうして天丸から教わることは沢山ある。何も知らない翔愛にとっては全てが覚えるべき事と言っても過言では無く、食事の仕方から挨拶の仕方、言葉遣いや王妃となる為の勉強。なすべき事は山積みだが今のところ必要最小限の事を教わるだけで精一杯だ。もっとも天丸も全てを教えるつもりは無い。今でも翔愛を愛綺に返す手段を考えているのだから。けれど何も知らない翔愛にとっては毎日が驚きの連続でこの国に来てからと言うもののまだ王の寝室から一歩も出ていないのに毎日がとても新鮮で、部屋から出ていないと言う事さえ考える暇も気づく暇も無い。

「さて、そろそろ時間ですね。食事にしましょう、翔愛様」

翔愛の前に膝をついていた天丸が立ち上がって部屋を出る。食事を運んできてくれるのだ。この国に来てから一番最初に驚いた事。それは一人だけの食事では無い事だった。
物心付いてから誰かと一緒に取る食事は初めてのことで、とてもとても驚きの連続だった。何せ人がいる所で食事を取った事が無いのだ。何をするにも緊張の連続だったし、食事に関するマナーもろくに知らない翔愛は自分の作法がとても恥ずかしいのでは無いかと怯えてしまう。だって食事の作法なんて知らない。フォークやスプーンを使う事は知っていてもたった一人で取る食事はとても冷たくて寂しくていつも出された食事の半分以上を残してしまっていたのだから。一応の作法はあの薄暗い部屋の中にあった数少ない本から学んだ。誰もとがめる者が居ないと分かっていても本の中には明るい部屋と家族と暖かい食事の風景が書いてあってこっそりとあこがれていたから。だからせめて同じ方法で食事をしようと誰も居ない部屋の中で一人静かに食事をしていた。けれど、そんな作法だから人と共にとる食事はとても緊張して慣れる事が無い。とがめられた事は無いけれど、落ち着けない。それでも笑顔で翔愛と一緒に居てくれる天丸の存在にとても安心する心もあるのだ。

「はい、今日の昼食は豪華ですよー」

ぼんやりとソファに沈んでいた翔愛の元にいつの間にか天丸が戻ってきた。かちゃ、と足の低いテーブルの上に置かれた昼食。そう言えば羽胤の食事は愛綺とは違う。草原の国である愛綺の食事はどちらかと言えば肉が中心なのだが海に囲まれた羽胤の食事は魚が中心だ。それに色とりどりのフルーツが添えられている。食べ慣れない物ばかりで驚くことが多いけれど2人で取る食事は何であれ暖かさを感じることが出来た。





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