星降る庭で...18




やはり軽い。椛から翔愛を受け取った天丸は腕の中で震える身体を軽々と抱えて着替えさせる為に寝室へと向かった。寝室が一番良いのだろうと思ったのだが、直ぐに見えた寝室の惨状に無言で身体を反転してがっくりと首を落とした。
天丸でさえ今の寝室に入るにはためらわれる。
これは後で片づけないと寝る事も出来ないだろうと少々腕の中の王子に同情して、しかし残る部屋を考えるともう場所は無くて仕方が無しに今足を踏み入れている寝室の前の書斎、翔雅の椅子に毛布ごと翔愛を下ろした。
小さな身体だ。翔雅が座れば丁度良い椅子も翔愛を乗せると椅子の方が大きく、椅子と言うよりもソファに見える。

「え、っと、とりあえず着替えましょうか」

そう言えばまだこの子とちゃんと会話した事は無かった。
思い出して声を掛ける天丸に翔愛はのろのろと毛布の隙間から顔を出して真っ直ぐに天丸を見つめた。

「きがえ、ですか?」

深い森の色をした瞳は真っ赤に充血していてさえも美しい。全ての造形が整っているのだろう。憎い相手だと思っている天丸でさえ、翔愛を見て自然と綺麗だと思った。しかしその存在、その色の所為で荒れる王を思い出して天丸は苦笑する。

「そう、着替え。手当は椛がしたから大丈夫だと思いますが、着替えて休みましょうね」

これじゃまるで子供に掛ける話し方だと思いながらもどうしても目の前の翔愛が成人している大人には見えずについ子供に対する態度になってしまう。
持ってきた服を広げてから毛布に手を伸ばす。
何でこんな事をしなければいけないんだと言う気持ちはあるものの、あまりにも怯えの酷い翔愛に流石にこれ以上非情にはなれない天丸だ。いくら憎い相手とは言え本当に憎いのは翔愛だけでは無い。愛綺国のやり方と勝手に結婚を決めた大臣連中も憎い。
かたかたと震える身体に気付きながらも怯えさせない様に、優しく、するすると毛布を剥ぎ取って着替えさせていく。

見ただけで震えているのが分かる細い身体にあちこちに残る傷。
だから椛はあんなに怒っていたのかと思いながら何も言わない翔愛に構うことなく素早く着替えをさせる。
羽胤の普段着は基本的に脱ぎやすく着やすい。海に囲まれた島国であるからだろう、大きな布を身体にかぶせて簡単に縛って止める。それだけだ。
薄い水色の布地は金色の髪をした翔愛に似合って美しく映える。

「はい、終わり」

にっこりと微笑めば服を着た事でようやく人心地ついたのだろう、翔愛もぎこちないながらに笑みを浮かべた。

「あ、ありがとうございました」

小さな声。おずおずと申し出るクセに真っ直ぐに見据えてくる瞳だけは変わらず、そこに不思議な違和感を感じて天丸は軽く首を傾げた。
何だろう、普通視線は逸らすだろうに。
恥じらいながらも一心に見つめてくる翔愛ににこにこと笑みを浮かべながらも天丸の抱く違和感は大きくなる。
何か、おかしい。
椛も気付いた翔愛の違和感に天丸も気付いた。

「ねえ、翔愛様?お話、聞いてもいいですか?」

翔雅の椅子にちょこんと座る翔愛の向かい側に膝をつく。
すると天丸の動きに併せて大きな瞳がじっと見つめてくる。まるで親を追う子供の様だ。

「おはなし、ですか?」

不思議そうに首を傾げてぱちりと瞬きをする。
たわいもない仕草だがそれだけで天丸の感じる違和感は決定的になった。

「そう、お話です。翔愛様の事、何も知らないから教えて欲しいんです」

外面では人の良い笑みを浮かべて内心では調査報告との違いを素早く比較して、自らの部下に調べさせた報告が間違いだったと気付くのにそう時間はかからない。
愛綺国第三王子。だたそれだけだった報告書を作ったヤツを後で締め上げてやろうと決めながら見詰めてくる翔愛に視線を合わせると不思議と翔愛の表情が和らいだ。

「僕の、こと、ですよね?」

良く分かってないのだろう。子供の返答に苦笑しそうになりながらも天丸は綺麗な微笑みを浮かべる。翔愛が城に入るまで感じていた憎悪は不思議と無い。目の前に居る子供があまりにも子供の様に感じるからなのか。さっさと国から追い出そうと計画を練るはずが興味を覚えてしまっている。

「そうです、翔愛様のお話です。今までの事とか、いろいろ、聞かせてくださいね」

もう一度、微笑みを浮かべて優しく問う天丸にやはり何も分かっていない翔愛は首を傾げながらも天丸の優しく見える仕草と声に安心したのか、ようやく震えが収まった様子で腰掛けた大きな椅子の背もたれに痛む身体を預けた。





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