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星降る庭で...19 |
| 話を聞きたいと言われても翔愛には特に事は無い。 生まれて直ぐに幽閉された事。それからずっと狭い部屋の中に居た事くらいしか話す内容など無いのだ。 他の何かをと言われても何も知らない翔愛には何も言えない。だから天丸にもずっと部屋の中に居た、としか言えなかった。 「そうですか・・・ずっと部屋の中に居たんですね。じゃぁ部屋の外に出たのは今日が初めてなんですね?」 「はい、そうです」 天丸の質問に答えて頷くと初めは柔らかな表情をしていた天丸が次第に真剣な表情に変わる。あの狭い部屋を出てあまりにも多くの事があって今の翔愛には何かを考える余裕は無い。問われた事に正確に答えてしまう。 「失礼ですが、第三王子と言う事には間違い無いんですよね」 「そうです。でも僕は何も知らくて・・・」 王子としての答えが欲しいのだろうか。 不安になった翔愛が天丸を見やれば天丸は違う違うと手を振った。 「そんな顔しないでください。別に怒ってる訳では無いんですからね」 天丸の口調は優しい響きだ。何処か兄である覇玖に似ていて翔愛を落ち着かせてくれる。しかし痛む身体はとっくに限界を超して、精神はそれよりだいぶ前に限界を超している。 休みたい。そう思っても仕方がないのだが天丸はまだ翔愛を解放してはくれない。 何より翔愛にはこれからどうすれいいのか、その前にこの国に何をしにきたのか、本当に何もかもが分からない。考える余裕もなくただ翻弄される翔愛に天丸は次々と質問を重ね、疲れ果てた翔愛が口を開くのも難しくなった頃にようやく天丸の身体が動いて立ち上がった。 「ありがとうございました」 穏やかな口調なのに天丸から発せられる雰囲気は何処か怖い。 指の一本も動かせない程に疲れている翔愛はそれでも大きな瞳の向きだけは天丸に併せて上を見上げた。 そうして自然と天丸が向ける視線の先を見てしまって、翔愛の身体が勝手に震える。 天丸の視線の先には書斎の入り口に立つ翔雅と椛を捉えていた。2人とも難しい表情で睨み付ける様に翔愛を見ている。 「あ・・・」 あの人だ。痛い事を沢山した人。怖い顔で翔愛を見る怖い人。 震えたくないのに身体が勝手に震えてしまう。 かたかたと身体を振るわせる翔愛に一番最初に気付いたのは何故か翔雅だった。 整っているのに怖い表情のまま翔雅は翔愛の側まで来ると翔愛を見下ろしながら静かに告げる。 「おおよその事情は分かった。乱暴に扱って悪かった。もう何もしない」 翔雅の表情は変わらず怖く感じるのに静かに落とされた謝罪の言葉に翔愛は訳が分からずただ翔雅を見上げてしまう。悪かったと言った様に聞こえたけれど、何に対して悪かったのだろうか?軽く首を傾げると金色の髪が揺れて小さな音を立てた。 「怪我をさせて悪かったと言っている」 何も分からぬ子供の様に見えたのだろう。繰り返しゆっくりと言葉を繋ぐ翔雅に、翔愛は大きな瞳をさらに大きく見開いてしまった。瞳が大きいからだろうか、睫が長いからだろうか、ぱちりと音がしそうな程の瞬きを見せる翔愛に翔雅は苦笑してしまう。こんな子供に八つ当たりした所で何も変わりはしない。失った物は戻らない。真っ直ぐに見つめてくる同じ色の瞳に苛立ちはあるものの流石にこれ以上は大人気無いと苛立ちを沈めて翔愛の視線から逃れる様に背を向けた。 「但し俺はお前の存在を認めん」 静かな声ではっきりと告げられる言葉に翔愛は翔雅の大きな背中を見つめながら何故今更そんな事を言うのか不思議そうにもう一度首を傾げた。 だって翔愛にとっては当たり前の事だから。生まれてから一度も存在を認めて貰った事のない子供には当たり前の言葉だから。それをわざわざ言わなくても翔愛には分かっている。誰にも翔愛の存在が認められる事は無いと言う事に。 ほんのちょっぴり、痛む心はあるけれど。 分かっていますと答えればいいのだろうか。声を出すのも疲れていて辛い翔愛は暫し迷ってしまう。 その間に既に翔雅の中では今の話は終わった事になってしまったのだろう、翔愛に背を向けたまま寝室の中へと行ってしまった。その後を天丸が追いかける。 「ま、今は休め。辛いだろ?」 そんな2人を眺めて苦笑いを浮かべていた椛が大きな手で翔愛を怯えさせない様に小さな頭を撫でてくれた。 何もかも分からない事ばかりだ。 翔愛の小さな心は既に許容量いっぱいで椛の言葉が無くてもすぐに意識を手放した。 大きな椅子に小さな身体をくたりと沈ませた翔愛が青白い顔で眠る。 その表情は辛そうで、何処か切なそうで。 「やっかいなモン抱えちまったな」 寝室から聞こえる翔雅の愚痴と天丸の声。 寝息もなく眠る翔愛。 全てを思って椛は苦い笑みを浮かべるとせめてもう少しマシな所で休ませてやろうと小さな軽い身体を抱えて隣のリビングに移動した。 |
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