星降る庭で...17



緑茶は羽胤特有の茶だ。
緑色の暖かい色は心を落ち着ける作用もあってか天丸と差し向かいで茶を飲んでいた翔雅の苛立ちも徐々に薄まってきた。しかし問題は山積みだ。

「これからどうします?暫くはこの部屋で監禁も良いでしょうがあまり長い期間はまずいでしょう?それに寝室の前には機密書類の山もあるんだから」
「寝室から出さなければ良いだろうが」
「や、いくら何でもそれはマズイでしょうが」

翔雅と天丸は幼馴染みだ。身分差はあれど親しい仲。2人だけの会話に敬語が省かれる事もあるが翔雅も特に気にしない。長年の友に対する態度で会話も出居る翔雅にとっては数少ない人間だ。だから自然と口も滑る。

「俺は認めん。早くどうにかしろ」

むすっとしたままで命令と言うよりは愚痴を漏らす翔雅に天丸はにっこりと微笑んで愚痴を返す。

「しっかり手を出しておいて何言ってるのさ。よっぽど美味しかったみたいだけど?」
「けっ」

にこりと笑う天丸の言葉に刺を感じるものの翔雅の表情は変わらない。しかも返ってくる返答は子供っぽいもので思わず苦笑いを浮かべてしまう。
しかし何時までもこうして気軽に茶飲み話をしている場合でも無いのだ。時間がかかれば掛かるほど、あの忌々しい王子を返す事が不可能になってくる。
まあ実際問題国際的にも契約のなされた王子を返すのは不可能に近いのだが、それでもまだ何とかなるだろうとは踏んでいる。いざとなれば非合法な手段を取っても構わない。事前に翔雅から命令を受けている天丸としては暢気にも思える会話をしながらも脳裏にはどうしてやろうかと言う腹黒い手段ばかりが浮かぶ。

「・・・同じ、色だとはな」

不意に翔雅が声を落とした。小さな頼りない声に天丸は翔雅を見る。翔雅も顔を上げて天丸を見て、苦い笑みを浮かべた。

「俺は、どうしたらいいのだろうか」

迷った子供の様な表情。それ程翔雅の傷は深い。
天丸は微かに瞳を見開くと翔雅と同じ様に苦い笑みを浮かべて背を伸ばした。

「どうしたらって言われても分からないよ。こればっかりは・・・何とかするとしか」

言いようが無いから、と続けようとした時、寝室へ入っていた椛がバタバタと足音も高くリビングに駆け込んできた。その手の中には毛布にくるまれた翔愛も居る。瞬時に表情を消した翔雅と天丸が何事だと椛を睨めばそれ以上の強さでにらみ返された。

「翔雅、王であるお前が何をしようとも許されると思うなよ、天丸、ちっと持ってろ。いや、そのまま着替えさせてやってくれ」

椛は慌ただしく見える動作で睨み付けているはずの天丸に翔愛を渡す。
もちろん良い顔をしない天丸だが椛の表情は険しく逆らえない雰囲気だ。訳も分からず翔愛を受け取ると無言で椛に追いやられる。
仕方無しに軽い身体を抱えて移動する天丸を見届けてから椛は睨み付けてくる翔雅にそれ以上の強さでにらみ返して拳を握る。そのまま無言で睨み上げてくる翔雅の天辺を殴った。
ごん、と低い音が広いリビングに響く。

「何をする」

国王である翔雅だがこうして椛に拳を落とされるのは一度二度では無い。昔は良く悪さをしては拳を落とされていたものだ。しかし今の状況では納得がいかない。怒りを含んだ声を向ける翔雅に椛は盛大に溜息を落とすと翔雅の正面にどかりと座った。

「お姫さん。えらい怯えててひたすら泣きじゃくってたぜ。ひとまず、医者としての意見を言わせてもらえば二週間は絶対禁止。ヤったら俺が殴る」

真っ直ぐに翔雅を睨み付けながら椛が重い声を落とす。
翔雅は眉間に皺を寄せたまま椛を睨むが何処となくバツが悪いのは自らの行為を思い出している所為か。ほんの少しだけ子供に見える翔雅に椛は苦笑して表情を和らげた。

「あのお姫さん、何者だ?」

椛は翔愛に対する情報が何もない。首を傾げて柔らかく翔雅を見ればあからさまに苛ついた表情になった翔雅がぷい、と横を向いた。

「愛綺国の第三王子。俺の嫁になる予定だが俺は賛成しない。何としてでも国に返す」

よほど苛ついているのだろう翔雅の返答にしかし椛は違う違うと大きな手を振る。

「じゃなくって、今までどういう環境で育ったとか、性格とか、好みとか、要するに背景を知りたいんだよ、俺は」

ほんの少し診察しただけで感じる違和感。あまりにも汚れの無い、要するに人を知らない翔愛の態度に椛は嫌な予感を覚えていた。
あれは普通に育った子供では無い。年の割に成長していない身体と心。操る言葉もたどたどしく何をしても真っ直ぐに見つめてくる大きな瞳。瞳には光があるが力は無い。ただ無心に見つめてくる無防備さ。僅かな時間の違和感が椛の中にある。

「天丸が調べたが特には無かった。何かあるのか?」

翔雅の椛に対する信頼は厚い。思わぬ話に僅かばかり身を乗り出した。

「ある、だろうな。何も出てこなかったと言ってももう一度調べ直した方がいい。あれはおかしいぞ。まあ、おかしいと言っても悪い方向におかしいとは思わんが、どうも愛綺の王子と言うには妙だ」

天丸の調べに間違いがあったとは思えないがどうにもおかしい。そう告げた椛は立ち上がると翔愛の様子を見に隣の部屋に消えた。
残された翔雅は一人顎に手を掛けて目を閉じた。
何がおかしいと言うのか。そう言えばまだまともに喋ってもいなかったなと今更ながらに思い出して、結局翔雅も立ち上がって翔愛の元へと向かった。





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