星降る庭で...16



嵐の様だった。
強くて逆らえない。何も出来ずに流されるまま。
けれど嵐にしては痛くて悲しくて辛かった。何故、こんなにも痛いのだろう。
意識を浮上させた翔愛が目を覚ますと視界いっぱいに見知らぬ男が顔を出した。

「・・・やぁっ」

また知らぬ顔。この人も痛い事をするのだろうか。
とっさに悲鳴を上げる翔愛に覗き込んでいた人、椛は苦笑しながら両手を上げた。

「俺は医者だよ。お前さんに取って痛い事は何もしないから安心してくれ」

随分と怯えている翔愛に対し椛の心中は複雑だがそれを一欠片も外に出す事は無く真っ青な顔の翔愛に安心させる様に笑みを向ける。

「・・お、医者、さま?」

血の気の引いた唇から小さな声が向けられた。呆然としながら椛を見た翔愛はそこでようやく自らが全裸である事に気付いて身体を縮こませてしまう。恥じらいよりも当惑の方が大きい。生まれてこの方、肌を他人に見せたことが無いのだから。

「ああ、そう警戒すんなって。動くと傷に障る。ちょっと治療させてくれや」

医者にしては随分な言葉なのだがもちろん翔愛に医者と言う職業に就く人が普通どんな言葉を使うのか等知らない。小さな身体を両手で隠す様に細い手を交差させながらも真っ直ぐに椛を見つめて、首を傾げた。

「きず?」

そう言えば身体が痛い。何処が一番痛いのかなんて分からない程に痛い。怪我をしたのだろうか?けれど怪我、と言うものも今一つ分からない翔愛はじいっと椛を見上げるだけだ。

「そう、傷の手当て。身体は拭いたから後は治療だけだ。大丈夫、俺は医者だ。お前さんにとって悪い事はしない」

無意識で身体を震えさせている翔愛に椛はにっこりと安心させる笑みを浮かべて手を伸ばす。
腰まで伸びた金の髪。深い深い森の色をした大きな瞳。造形は驚く程に整って、どんな仕草でさえ見る物を魅了する。
そんな不思議な色を怯える少年から感じ取った椛は翔愛に分からぬ様に眉間に皺を寄せる。舌打ちしながら怒鳴りたい気持ちだ。こんな危ないモノを良くこの城に入れてくれたものだと。この外見だ。少年の中身がどうであれ勝手に想いを募らせるする輩も出てくるだろうに。
翔雅には苛立ちでしかないこの外見が何も知らぬ者が見ればどうなるのか。翔愛の美しさに見惚れるよりも憤慨したい、そんな忌々しい気持ちになってしまった。
しかし今は医者としての仕事が最優先だ。そっと触れる細い身体は酷く冷えていて出血の収まらない傷もある。しかし、治療と言うからには傷の全てを治療しなければならない訳で。

「なおして、下さるのですか?」

椛がゆっくりと言葉を操った所為もあるのだろう。一心に見つめてくる翔愛の顔色がようやく良くなり始める。しかしこれからの治療を思うと椛の気は沈む。

「ああ、完全に直すって訳にはいかないが手当をしたい。だから怖がらないでくれ。な?」

それは無理な話だろう。分かってはいても声に出して椛は心の中で苦い笑みを浮かべながら隣の部屋でむすくれている翔雅を思って舌打ちした。





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