星降る庭で...05



一方、羽胤城の最奥。白と深紅で統一された謁見室の裏。
通常、国王と一部の部下のみが入る事を許される、羽胤城の規模にしては小さな部屋で一人機嫌悪く大きな椅子にだらしなく腰掛ける男は手渡された書類を丸めた。

緩やかにカーブを描く金色の髪、浅黒い肌、男らしい、威厳のある整った顔立ちと鍛えら得た強靱な、しかし無骨さを感じさせない肉体。
白いゆったりとした衣装の上に王である事を示す深紅の薄衣を纏った羽胤国国王、翔雅(しゅうが)だ。
樹海を思わせる深い緑色の鋭い視線を正面に立つ青年に向ける。

「何処の何奴だ。阿呆な事抜かして愛綺国から嫁なんぞ引き抜いた阿呆は。ああ?」

忌々しい声は低く、厳しい。

「引き抜いんじゃなくって、押しつけられたんです」

誰もが平伏す視線と声に、しかし王の部下である青年は肩を竦めるだけでやり過ごす。

「一緒だろうがよ。何であれ、受けとっちまったら賄賂成立で愛綺を許す事になるだろうが」
「仕方がないじゃないですか。正式な手続きと書類と話術ですーっかりウチの大臣一同騙されちゃったんですから。ついでに私は休暇中でした」

尚厳しい声色に、それでも青年は動じる事なく苦笑いを浮かべるだけだ。
翔雅は盛大に溜息を吐き出すと厳しい声を呆れた声に変えて部下の名を呼ぶ。

「・・・天丸(てんまる)。お前はどうしてそう・・いや、今更言っても仕方がないな。調べはついてるのか?」

天丸と呼ばれた青年は柔らかく微笑むと翔雅が丸めた書類とは違う色の書類の束を差し出した。

淡い色の茶色の髪を腰まで伸ばしている天丸は城内でも知らぬ者の居ない翔雅専用の執事だ。
ただ一人、役職に捕らわれぬ黒の衣を身につけ、王と同じ朱色の薄衣を羽織るその姿は翔雅と並べばこそひょろ長く弱く見えるが、一人で立つその姿に天丸をひ弱だと笑う者は居ない。にこやかな笑顔の裏に何か含む、そんな印象を与えそうな天丸だが意外に人気は高く、仕事であれば黒い笑顔を駆使するが普段であれば優し気な顔立ちと印象も手伝って第一印象は悪くない。

「一応調べました。が、ハッキリ言って城に入れるのはイヤですね。怪しすぎなんですよ、この翔愛ってコ」
「けっ」

国王らしからぬ態度で書類を捲る翔雅の顔色が徐々に変わる。
天丸の差し出した灰色の書類は国王である翔雅と、その専用の執事である天丸にしか閲覧の許されない、最重要機密書類に分類される物だ。

「おい、俺は野郎を嫁に迎えて子供を産めると言うのか?」
「一番初めがそこですか。まあ、同姓婚でもウチの国はオッケーですからいいんじゃないですか?どうせ子供は作らないでしょ?翔雅様は」
「当たり前だ、が・・・」

ぺらぺらと書類を捲り、一通り読み終えた翔雅は灰色の書類に火を付けて銀色の器に捨てた。
その表情は厳しい。

「愛綺国の誰がこの話を勧めた」
「覇玖様です。第2王子ですね。キレ物ですよ。でもって随分と翔雅様の事を調べてらっしゃるみたいで」

翔雅に渡す前に天丸も灰色の書類に目を通している。
そこに書かれているのは愛綺国から差し出される生け贄、翔愛の事と、翔雅に関する誰にも触れられたくない、過去の事。
事細かに示されるそれは、例え誰もが知っている公然の秘密であれ、翔雅の機嫌を悪くする物でしかない。

「・・・つぶす理由はないのか?」
「残念ながら今の所は。あれで大きな国ですし、羽胤国の領海で海賊行為をした以外に責める理由はありませんからね」

天丸の表情も厳しい。己の主君を陰でこそこそと調べられて嬉しい訳がない。
しかも、翔雅に関しては未だに誰の口からも出る事のない悲しい過去があるから余計に。

「この人質はどうなっても構わないんだな?」

燃やした書類の灰を横目で眺めて翔雅は物騒な笑みを浮かべる。
天丸も普段浮かべている柔らかな表情を消して翔雅を真っ直ぐに見つめる。

「構いません。どうなっても文句は言わないし、何をしてもお好きにどうぞとの事でした。何考えてるんですかね。一応血を分けた息子でしょうに」
「さあな。だからこその賄賂なんだろ」
「でしょうね」

静かに会話を続ける2人の声は何処までも冷たい。
幾つかの確認事項と政務の話を続けながら翔雅も天丸も、これから訪れるであろう翔愛と言う生け贄にも近い人質に、怒りと嫌悪を深めた。





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