星降る庭で...04



羽胤城(はずきじょう)。この世界の中でも羽胤国(はずきこく)は異質であり尊い存在だ。

全ての大陸の中央にある海の、その中心に位置する不思議な力に守られたさほど大きくもない島が羽胤国の全てだ。
その周りの海を含めたとしても、羽胤国の国土は小さい。
島の中も城と城下町、幾つかの街や村に港が幾つか。規模としてはやはり小さい。
けれど、羽胤国は世界の頂点に、けれど異質な位置にある。

何故ならば、羽胤国はこの世界で唯一の完全中立国家だからだ。

この国はどの国にも寄りかからず、どんな力にも屈しずに中立を貫いている。
その昔、商人の集まりが世界の中心であろうこの島に集った事から始まった歴史は継続するどの国よりも古い。
その特性が後生まで生かされ、羽胤国は完全中立国として世界を見守り、時には助言し手を出し世界の平和を願っている。
世界のどの国も羽胤国には一目置き、必要とあらば助言を請う。例えその地位を羨んで攻撃しようとも、他の国が中立国家に踏み入れる事は許さず、世界の調和と絶妙なバランスにより羽胤国は世界でも一番有名な国として今日も存在し続ける。

けれど、当然だが翔愛がそんな事を知る訳が無い。
生まれた時から存在を認められなかった子供に世界情勢等分かるはずも無く、突然めまぐるしく変わる辺りの風景にただただ絶句するしか無かった。

突然の知らせと命令と移動。
全てはたった一日の間に行われ、朝にはあの住み慣れた薄暗い小さな部屋で目覚めて、いつもと変わらぬ粗末な朝食を取る朝を過ごしたのに。
慌ただしく時は過ぎ、日の光が高くなった今は不思議な船に乗って、翔愛には分からなかったが船の速さはおそらく世界の中でも類を見ない程に立派な物で、そして、世界にあるすべての法則でも解けない様な早さで進んでいて、もう羽胤国の城の前まで来てしまっていた。
何も知らない翔愛にとってその動揺は大きく、何も分からず兄に首を傾げながらもうっすらと微笑んでいたその美しい顔は今では可哀想な程に青ざめてしまっている。

初めて見る外の世界。
澄んだ空気。
青い空。
浮かぶ雲々。
着慣れない豪華な衣装。
慣れない他人の気配。

何より、足首にある違和感。

そう、足首にはめられた金属によって翔愛の色は変わってしまった。
あれほど憎まれた黒い色が無くなってしまったのだ。
用意をさせられて、終わった時に鏡を見た時に翔愛は倒れてしまう程に驚いた。
闇の色と同じ自分の色。それを憎いと思った事もあるが慣れ親しんだ自分の色だったのだ。
それが足首の金属によって変えられてしまった。

腰まで伸びた長い髪は光に反射して輝く金色に変わり、夜の色だった大きな瞳は見る者の魂をも奪いそうな程に美しい、深い森を思わせる緑色に変貌していた。

それは、ほんの少しだけ望んだ色。けれど、決して翔愛には無かった色。

だから、覇玖は翔愛を見つめては笑みを漏らしているのだろうか。
船の中、見た事もない程に豪奢な部屋の中で覇玖はずっと翔愛を見つめては微笑んでいた。
今までだってあの薄暗い部屋に好んで訪れて来たのは覇玖たった一人だったけれど、覇玖はいつだって翔愛の事をあまり見つめていてはくれなかった。
それは翔愛の色の所為だとは分かっていたから何も思わず、むしろ申し訳無い気持ちで一杯だったのだけれども、今は違う。

色の変わった翔愛が良いのだろうか。そんな事は分かりすぎている事だ。誰もこんな黒い色を好む訳が無い。
そんな事は分かっている。

分かっているけど、けれど、少しだけ、翔愛の小さな胸が痛んだ。





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