星降る庭で...02



愛綺(なあや)国。

大陸の東に位置する温暖な気候の、主な国土を草原とする豊かな国だ。
国民も総じて穏やかで、日々を草原で家畜を飼って暮らしたり、東の果てでは港で魚を捕ったりしてゆっくりとした時間を楽しむ、そんな国だ。

その愛綺国を納める国王は賢王と名高い国王で愛する妻を十数年前に無くしたものの2人の王子と理解ある家臣に囲まれ、概ね平和に国を治めていた。


けれど一つだけ、この国には暗い闇があった。


国王が王妃を亡くす寸前、王妃は子供を身籠もった。
それは間違える事無く国王の子供であり待望の3人目の子供であると皆が確信していた。

国王と王妃、そして2人の兄に愛情を注がれた生まれる前の子供は腹の中に居た時だけが幸せな時だったのだろう。
悲劇は子供が生まれた時と同時に起こった。

国王も王妃も輝く金色の髪を持っていた。
もちろん、先に生まれた2人の子供も金色だった。
瞳の色こそ多少の違いはあれど、総じて金色を持つ国王一家は生まれてくる子供も金色なのだと疑いもなく思っていたし、それが当たり前だった。

しかし、雨の激しい夜に生まれた子供は闇を抱えたかの様な烏色の黒い髪に、瞳までもがその色だった。


当然国王は激怒した。
生まれた子供は何処の子供なのだと王妃に迫った。
しかし王妃は国王の責めに答える事無く生まれたばかりの黒い子供を抱えて呆然とするだけだった。

何の不自由もなく、愛情すら不自由のない生活の中で王妃はたった一度だけ間違いを起こしてしまっていた。

愛する物は国王と2人の息子。
しかしあまりにも平和な生活が王妃に魔を刺したのだろう。
ただ一度の逢瀬で身籠もってしまったとは思わなかったのだが、生まれた子供を見ればその色でただ一度の間違いが、一度の間違いだからこそ、色となり王妃の前に現れたのだと容易に想像がついた。

しかし想像は現実で、腕の中に居る黒い子供を国王は我が子とは認める事が出来ず、王妃も自らの子供だとしても愛情を注ぐことは無かった。

ただ一度の火遊びは重く王家にのし掛かり、何度も何度も黒い子供を殺そうとした王妃はその度に従者や時には国王に止められて少しずつ精神を病んでいった。

王妃は国王を愛している。
国王も王妃を愛している。

ただ一度の間違いで王妃を手放そうとも思わなかった国王は、例え色の違う子供であろうと、我が子とは認められないが、それでも王妃に手を下させるにはあまりに不憫だと子供を庇った。

しかし、少しずつ、少しずつ全ての歯車が狂っていく。
時を緩やかに、けれど狂った歯車は回り続けとうとう取り返しのつかない事件を起こす。

それも、雨の激しい日だった。
日々焦燥し精神を病んでいった王妃は物心付く前の子供を忘れ、ただ狂った心だけを抱え国王の前で喉を短剣で裂いた。
思い切りよく、隠し持っていた短剣は血の色でぎらりと輝き、王妃の狂った笑い声と何処か安らかな瞳を塗りつぶした。

国王はそこで初めて子供を呪う。

何故生まれたのだと。
何故存在するのだと。

諸処の事情からまだ名前すら決めかねていた小さな子供に国王は初めて憎悪を抱き、失った王妃の死を嘆いた。
たった一度の間違いが全てを狂わせ、子供は何も知らぬまま城の奥深くにある小さな棟にほんの僅かに、ただ生きるための最小限必要な物と従者だけをやって、永遠に幽閉される事になった。

それでも子供の命を奪おうとしなかったのはただ単に子供があまりにも王妃に似ていたからであり、賢王としての心が止めたのかもしれない。
しかし黒い髪と瞳を持つ子供に愛情など注げる訳もなく、王妃と共に子供も事故で亡くなったのだと発表した国王は全てを忘れる事にした。





back...next