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星降る庭で...01 |
| ぎい、と。 重い扉の開かれる音がした。 少年は、いや、年の上で言えば成人している。 けれど発育の悪い身体付きは何処からどう見てもまだ十代の中頃に居るのだろう少年の姿にしか見えない。 細く小さな身体に身に纏っているのは粗末な衣装のみ。 寝具と小さなテーブル、必要最小限の家具がある薄暗い部屋で少年は小さな椅子に腰掛けていた。 何があると言うのだろう。 大袈裟な程に沢山付けられた鍵を外す音は随分前から大きな音で響いていた。 だから、扉が開かれる事は分かっていたけれど、まさか本当に開かれるとは思ってもみなかった。 それが少年の心中。 普段世話をしてくれる数人の人間ですら、あの扉の全てを開く事は無い。 大きな扉は全てを開くには時間がかかりすぎるからだ。 普段は扉の下部に付いた小さな扉、と言うよりは窓の様な入り口から出入りする。 もっともそれは少年の世話をする人だけで、少年はこの部屋から一歩も出た事は無い。 きっと、生まれてからずっとこの部屋の中に居るのだろう。この小さくて薄暗い部屋の中での生活しか少年の記憶にはないのだから。 あんなに大きな扉、開けるだけでも大変そうだ。 静かに扉が開かれるのを待ちながら、けれど少年の内は冷えていた。 あの扉が開かれるときは少年に誰か訪れる人がある時だけ。 その訪れる人も極々限られた人で・・・こんな風に扉を開けて来る人は少年にとっては怖い人なのだ。 随分な時間をかけて、ようやく扉の全てが開かれた。 やがて眩しい外の光が狭い室内を刺す。外の光は少年には眩しすぎて、痛い。 瞳を閉じたまま光に慣れようとただ耐え、やがて慣れた瞼がゆっくりと持ち上げられ、来訪者を星の浮かぶ様な漆黒の、大きな瞳に映し出した。 「久しぶりだな」 忌々しさの拭えない声で少年に声を掛けたのは身なりの良い、それも最上級の物のみを纏った国王だ。 「お久しぶりでございます」 小さな声で少年は国王に答えるが、国王は少年の返答等求めては居ない。 眉間に皺を刻みながら小さな部屋に入ると従えた従者と共に嫌悪の籠もった視線で少年を見下した。 「お前をこの国から出す。これを付けろ」 少年と口を利くのも嫌なのだろう。 国王は従者に顎で指図する。 従者は音も立てず、少年に一つの物を差し出した。 それは、外の光に反射するキラキラと光る金属で出来た不思議な色の輪っか。 作りは細く華奢。銀色にも金色にも見える不思議な色。ただよく見れば銀色よりも金色の方が強く、華奢に見えて頑丈にも見える。 「・・・これは?」 身につけろと言われても何処に付ければ良いのか分からない。困った表情でおずおずと口を開けば国王は苛立った口調で短く足首にだと告げた。 それでも少年はその輪っかの付け方が分からず、じっと真っ直ぐな瞳を国王に向けるとあからさまに視線をそらされてしまって、少年もすぐに視線を下げた。 「どうすれば、つけられるのですか?」 困り果てて従者に尋ねれば従者は言葉もなく輪っかを操作してそれを少年の右の足首に装着した。 カシャンと冷たい音が静かな部屋に響いてひんやりとした感触と、輪っかを装着した途端に言葉に出来ない不快感を少年が襲う。 「それは色を変える装置だ。お前はこれから羽胤(はずき)の城に行く。その姿で国王の元へ嫁げ」 足首に残るチリチリとした感触に表情を歪めたままの少年に国王は冷たい声で一方的に告げると一人部屋を出てしまった。 よほどこの部屋に居たくないのだろう。 従者も国王の後に付いて出ていってしまった。 部屋に残されたのは少年一人。 そっけなく告げられた国王の言葉には沢山の重要な事があったのだが少年は足首の嫌な痛みに気を取られて良く聞いては居なかった。 今国王は何と言ったのだろう。 首を傾げながらも足首が気になってしまって、冷たい金属にそっと細い指を滑らせると部屋を出ていったはずの国王が一人だけで戻ってきた。 「それは解除する言葉がなければ外れんし外す事も無い。それから、お前の名は翔愛(とあ)だ。覚えておけ」 足首の金属に触れた少年を冷たい目で睨み付け、国王はじっと色の変わった少年を見下ろしていた。 今までただの一度もまともに見る事が無かったのに何故、何時までも見ているのだろうと少年が足首から指を離して国王を見上げると国王は真っ直ぐに少年を睨む。 何処までも冷たい目。憎悪の籠もった視線。しかし少年に向けられる視線は何時でも国王と同じ視線だったから少年はただ不思議に思って国王を見上げるだけだ。 「後ほど支度をさせる。終わり次第羽胤の城へ行け」 それでも国王は少年の疑問の籠もった視線に答える事無く今度こそ足音も高く部屋を出た。 そう言えば国王は少年に名前を告げた。 翔愛と言う名前だと告げた。 「・・・と、あ?」 不思議そうに自らの名前を呟く少年は初めて与えられた名前と言う物に戸惑いながら、名前以外の重要な言葉を全て聞き逃してしまっていた事には、ついに気づけなかった。 |
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