夜の街の魔法使い・星を掴む人 01



ざわざわと活気のある街は昼前とあって賑やかだ。空は快晴で、この辺りは気候も良い。
澄んだ青空を見上げたユティは眩しそうに目を細めると、街をぐるりと見渡した。
所狭しと建物が並んでいて活気がある。いい街だ。
ふわりと鼻を擽るのは美味しそうな食事の匂いで、そろそろ昼食時だから食堂らしき店々から人が溢れている。ユティも目に入った店に入ることにする。混んではいるけど満席ではなさそうな店が狙い目だ。入り口で立ち止まればエプロン姿のおばちゃんが来てくれる。
「いらっしゃい!お兄さんお一人かい?悪いけど相席でも大丈夫かい?」
「うん、いいよ。昼時だもんな」
そもそも、その相席を狙っていたし。口には出さずに案内のおばちゃんに微笑みかければイイ笑顔が返ってくる。
案内された席は4人用のテーブル席で、商人らしき男が2人座っていた。ラッキーだ。服装からして旅の商人だろうから、いろいろと聞けそうだ。
向こうも同じ気持ちだったのか、相席を笑顔で受けてくれて席を勧めてくれる。有り難く座って日替わりを注文すれば早速商人が話しかけてきた。
「よお、兄さん。見慣れない恰好してんな。その装飾品の多さから見るに魔導師か魔法剣士って所か?」
「ああ、魔導師だ。旅をしてる。でもあんま強くないからコレでガッツリ補強してるんだ」
ユティの第一印象は大抵が身につける装飾品の多さだ。両手に填める指輪とブレスレットの数は10を越えているし、首からも細い鎖や編み込んだ特殊な糸のネックレスも数本ある。全て魔法に関するものだ。
魔導師と言われる人々は大抵が装飾品を身につけているけど、ユティの数は明らかに多い。
そして、魔導師と言えば誰もが知る装飾品がある。ユティの装飾品を感心しながら眺める商人に自己紹介代わりに、と懐から小さな杖を取り出して見せる。
魔導師の杖。
全ての魔導師が必ず持つものだ。
ユティの杖は手の平より少し長いくらいのもので、装飾もなにもない、魔導師の中では下級に位置するものになる。
「おお、確かに魔導師だな。にしても目立つなあ、兄さん。そんなんじゃ盗賊に襲われちまうぞ」
「魔導師が身につけてる装飾品は狙わないだろ。これ全部、俺の呪いと執念がたっぷり籠もってるし」
「その籠もってるものを差し引いても欲しがる馬鹿はいるもんだぞ。それに、兄さん本体も良く見りゃ、なあ。まあこ見た所1人みたいだから強いんだろうけどさ」
「褒めてくれてありがと。って言いたい所だけど、そうでもねえぞ」
「またまた、謙遜するねえ」
ははは、と商人達が笑ってユティも苦笑しておく。
こう言う話題は流すものだし、装飾品の次に必ず言われるから慣れてもいる。
どうせひ弱な見た目だし他人に与える印象は悪くはないけど、男らしいとか厳ついとか、の真逆だよ、と。
大陸によっては珍しいとされる黒い髪と赤の濃い紫の瞳を持つユティは良く見れば綺麗に整った容姿の持ち主で、30歳を越えた今もかなり若く見られる。
流石に子供に見られることはないけど。
「俺のことはどーでもいいの。そっちはどうなんだ?この街に来てるってことは、トンネル潜るのか?」
「ああ、これから潜る所だよ。午後には出立する所だ。兄さんもかい?」
「俺は明日で、草原を通る予定だよ。ちょっと欲しいアイテムがあるんだ」
「ははあ、兄さん強いんだねえ。こりゃあ良い人に出会えた。向こうで無事に会えたら酒でも奢るよ」
「サンキュ~。まあ俺の力だとギリギリだけど、向こうで会えたら有り難く奢ってもらう」
お互いに名前を告げて、軽く無事を祈り合えば注文していた品が来た。
ユティがカップを掲げると男達も掲げてくれる。ゴツン、と乾杯をして飲めば冷たくて美味しい。
ここは『南の玄関、サーズ』と呼ばれる街だ。
ユティと男達が言っていた様に、街の奥に地下に潜るトンネルがある。
大昔、何千年も前に作られたトンネルは街道と同じ広さがあって、途中には小さな街もある。
この世界でも有名な通路だ。
トンネルを半日ほど歩けば次の街に出る。
ユティの目指す街、通称『夜の街』だ。
『夜の街』
名前の通り、夜しかない、朝も昼もない、夜だけが続く不思議な街だ。
規模は小国より大きくて、世界中の魔導師が憧れる街にもなっている。
なぜかと言えば、夜の街には魔力が溢れ魔導師の使用する道具が作りやすく、街の外に広がる草原地帯は強力な魔物が徘徊する難所だからだ。
通常は商人達みたいに地下トンネルを使う。ここは国の騎士達が守りを固めていて安全だからだ。
けれど、ユティは草原地帯を通る予定だ。
人の手の入らない、入れられない草原地帯は強力な魔物が徘徊する地帯で、腕に自慢があっても無事に通ることはできない。
平坦な土地で隠れる場所もないから草原地帯を通る旅人は腕に自信がある者のみ。
それでも死者は絶えず、けれど強力な魔物が持つ貴重なアイテムを狙って草原地帯を通る者が絶えない。
ユティもその1人と言う訳だ。
食堂で出会った商人達と無事を祈るのも、無事に夜の街にたどり着けたら奢ってもらえるのも、この草原地帯が危険だからだ。


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