01.09...愛しい空気
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雀が朝の御挨拶を終えてそろそろ日が空の天辺に来る時間帯。 ででん。と、広い部屋の中央に配置されたクイーンサイズのベットの上、布団に丸まりながらひたすら布団虫になっているのは綾宏だ。 白い厚手の布団がもこもこと丸くなって、そのはしっこからちょろりと茶色い髪の毛がはみ出ている様がまさに布団虫と言う訳で。 「綾宏、いい加減機嫌直してくれよ」 そんな布団虫をベットの端に座りながらなだめているのは既に出かける支度を済ませた颯也だ。 それでも布団虫は何時まで立っても布団虫からヒトには変化してくれなくて、起きた時から颯也は手を焼きながらも苦笑を浮かべてぽふぽふと布団を撫でてはご機嫌を取ろうとしている。 何せ昨日がマズかった。 撮影に引っ張り出して人前で煽ってその上床の上でいろいろとやりこんでしまったのだから、これで綾宏の機嫌が良かったら何か悪いモノでも食べたのかと違う心配をしなければいけない処だが、生憎機嫌はきっちり急降下で悪くなっており、お互い楽しんだんだからいいじゃないかとはちょっとばかり口が避けても言えない状況になっていた。 「身体中痛いから動けないもん」 布団の中から拗ねた声が響いて、やはり機嫌は最悪なんだなと、それでも颯也は今の状況を楽しみつつ、苦笑いのまま布団虫の上に体重をかけない様に覆いかぶさった。 生まれた時からの付き合いだ。何をどうすれば機嫌が良くなって悪くなるかなんて分かりきっているし、何よりどんな時でも愛おしいと言う事実には変わり無い。 たとえ布団虫だって愛おしいのだ。 「俺も筋肉痛だ、気にするな」 昨日の痴態を思い浮かべて苦笑いをにんまりの笑いに変えた颯也に、気配だけで分かったのか、布団の中から更に機嫌の悪い声が届く。 「明らかに僕と颯也の痛い所も痛い種類も違うと思うんだけど」 「翌日に痛いだけ有り難いと思え。俺等の年じゃ一日置きなんて話も良く聞くんだぞ?」 考えなくとも身体の痛みは筋肉痛では無い事は重々承知している。が、それでも布団虫を宥めつつ、ぽむぽむと布団を叩いて見えない事を良い事にニマニマしてみる。 「だから僕は筋肉痛じゃないのっ!床の上でヤったからあちこち擦りむいて痛いの!何よりお尻が痛いんだってば!」 それも気配と言うか声色でしっかり分かっているのだろう。今度は怒鳴り声が聞こえてきて颯也はニマニマをニヤニヤに変えて引き続き布団をぽむぽむと叩いた。 「何だ、治療して欲しいのか?懇切丁寧に薬なりなんなり塗り付けてやるぞ?」 ちなみに、この場合の塗り付けるモノは薬だけでは無い。 「誰もそんな事言って無いもん!」 「言ってるだろうが。ほら、いい加減機嫌直して起きてくれ。俺はもう仕事に行っちまうんだ」 「かんけーないもんっ。僕はずっと、ずぅーっと具合が悪くて寝てるからねっ」 何時まで経っても平行線。 それもそれで颯也としては楽しいのだけれども、いい加減出社の時刻は過ぎているし、何よりあまり布団虫のままだと綾宏の息も上がってしまうだろうと見切りを付けて、ひとまず折れる事にした。 「分かったよ。悪かった。出来るだけ詫びはするから機嫌直してくれよ。仕事なんざどうでもいいがお前に触れられないのは辛いんだ」 笑いを含んだ声を一転させ、真剣な声色の中にも独特の甘さを含んで颯也は布団の端を捲ってその中に囁く。 それは丁度綾宏の顔の辺りで。 「・・・・ずるい」 程なくして陥落した綾宏から抗議の声が出るけれど、もう機嫌の悪さは無い。 「ありがとう」 「そこで微笑みながらお礼言わないで」 ようやく布団虫からヒトに変わりかけたらしい綾宏は、顔の、目から上だけを布団から出して颯也を睨む。 少々顔が赤くなってしまっているのは布団の中で怒鳴ったからと、何年も何度も聞いているのに聞き慣れているのに、それでも尚聞けば落とされる颯也独特の甘い声を聞いてしまったからで。 「ほら、もう起きろ」 微笑みながら両手を伸ばしてくる颯也の腕に絡めとられて、まだかぶっている布団ごと颯也に抱きついた綾宏は逞しい首に両手を掛けて朝一番にしては濃いキスをした。 唇を合わせて、舐めて、絡めて。 くちゅ、と音を立てて離せばそのタイミングを見計らった様に寝室の扉が開いて見知った顔がその中心にでかでかとうんざりと書いて2人を眺めている。 「えーっとぉ、おはようございマス。颯也さん、早く会社に行かないと榎戸さんに怒られるよ?」 扉から顔だけを出しているのは朝になっても一向に出社する気配が無いからと、またしても社を追い出された充だ。 過去に同居していた関係からか2人のこういった場面は見慣れてはいるけれど、朝から見たいものでは決して無い。 「そういや昨日なんか言ってたっけな」 残業続きで寝不足の充に対して、しっかりと睡眠を取った上に性欲まですっきりしている颯也は眉をしかめたまま、笑顔で釘を差してくる榎戸の笑顔を思い浮かべて嫌な顔をしたついでに抱きしめていた綾宏を抱え直した。 「校正チェックだよ。早く行かないと後が恐いと思うよ?」 全く動く気持ちの無い颯也に充はそれでも寝室内には一歩も進まずに入り口で手招きをするだけで止まっている。 朝だと言うのに妙に濃厚な雰囲気で空気な部屋に入りたく無いと思うからで、未だベットの上でいちゃくらこいてるバカップルはそんな充の何処か引き攣った表情を見て、今までのやりとりをすっかり消して、楽しそうな表情になってしまった。 「俺も行きたいのは山々なんだが、綾宏が動けないしなぁ」 「そうだよねぇ。まだあちこち痛いし。でも今日はお仕事なんでしょ?」 抱きしめ合ったまま、顔を刷り寄せてで囁き合いをしてみれば、それが聞こえてしまったのか、充はあからさまに引き攣った笑顔を見せて、一歩後ずさってから扉を閉めてしまい、僅かに空けた隙間から声だけを入れてきた。 「・・・颯也さん。昨日何した・・・ううん、言わないで、聞きたく無いから」 「ちょっとばかし床運動の上にベットでも運動したからだ。いやぁ、昨日の綾宏は可愛かったぜ?」 「言わなくていいって言ったのにぃ」 本当はとっとと逃げ出したいけれど、充には立派な役目があって、それを果たさない事には後が恐い。 微笑みを浮かべた上司とも言える男の顔がぽんと浮かんで、逃げ出したいけれど頑張ってその場にふんばりながら尚も充は食い下がる。 「颯也さんと一緒に行かないと怒られちゃうから早く用意してよぅ」 ほとんど涙声になっている充にベットの上の2人と言えばぷぷっと充に聞こえない様に笑い声を出してしまい慌てて口を押さえて、それからまた肩を震わせて笑い続けた。 「もうそろそろ行かないと充君泣いちゃうんじゃない?」 「ちと虐め過ぎたか。しょうがねぇなぁ」 こそこそと小声で囁き合って、もうすっかり機嫌の治った綾宏に軽くキスをしてから颯也は立ち上がる。 「じゃ、行ってくる。ちゃんと休めよ」 上着を羽織ってから布団に包まったままの綾宏を振り返って、手を伸ばして乱れた髪を撫で付けてやりながらもう一度キスを落とした。 「僕は大丈夫だから、むしろ居ない方が嬉しいから」 上を向きながら颯也のキスを受けて綾宏は微笑むと両手を伸ばして颯也の頬を包み込んだ。 「いってらっしゃい。気を付けて」 そして今度は綾宏からキスを仕掛けて、けれど軽くは無くしっかりと水音をさせてからゆっくりと顔を離した。 少し上気した、色の変わった頬を見せながら綾宏はもぞもぞと包まっていた布団にくるまりなおす。 「じゃぁな、後で電話する」 「ん」 半布団虫になった綾宏に颯也が向けた笑みは日頃綾宏限定でしか見られない、酷く優しい笑みだ。 「おし、充!行くぞ」 それを一瞬で消し去って、まだ普段通りのにやついた笑みを浮かべなおした颯也はどかどかと寝室を出た。 途端に静かになる部屋の中。 布団に包まったままで綾宏は寝室の出口をぼけっと見ながら、にへら、と笑みを浮かべた。 それは、今日は一日ゆっくり休める、の笑みでは無くて、今日も楽しい始まりだったと言う少々意地悪な思いながらも幸せを感じている笑みだった。 |
ひとまずvol.01はここで終了です〜。 長々だらだらとお付き合いありがとございました〜(ぺこり) ほぼ自己紹介の触りだけな感じで申し訳ないのです。 次はもうちょい詳しく深くいきたいと思います〜。 ・・・えろもがんばります(笑) |
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