第1部・風の宮殿、白の騎士.021 |
ヴァンの執務室は宮殿の中でも上層部になるらしく、カトルガは延々と宮殿の上の方に登っていく。 階段ではなくて、カトルガ専用の、呪文の輝く道が空に浮かんでいる。その呪文にそって延々とカトルガは空を進んで、宮殿の外壁を螺旋状にぐるぐると、朱理の目がまわりそうなくらいに進んで登って、外に出た事で増えたマールファンを突きながら遊んで、やっと到着だ。 上に登っても宮殿の広さは変わらない。いや、むしろ上の方が広くて高い。何もかもが朱理の想像を超えた広さと高さだ。 例えば、到着したカトルガから執務室の扉らしき所まで歩いて何分もかかりそう、な広さだ。 「ふえー。ひろっ。遠いっ」 真っ直ぐに続く執務室までの道のりを眺めて叫んだ朱理に対し、リグは不思議そうにしている。 「そうか?まあ、確かに一番奥が執務室だが、それ意外にも部屋はあるしな」 「でも遠いって。ほんと、この宮殿って広いんだな」 「広さは認めるが、生まれ育った環境がこの空間だからな。慣れもあるだろうが・・・ああ、アカリ、残念ながら執務室までは徒歩だ」 「やっぱり・・・」 そんな気はしていたのだ。カトルガ用の呪文の道がなくて、延々と白い石畳だから。ついでに言えば延々と続く廊下、だと思うが朱理にはもう道路みたいな広さだ、には割と沢山の人がいる。 リグみたいな騎士の人と、アシードみたいな服の人。他にも沢山歩いていたり、廊下に固まって何か話していたり、皆忙しそうだけれども、朱理が思うのはやっぱりファンタジーなんだなあ、と言う事と、意外に普通に見える人も多いなあ、と言う事だろうか。 最初に出会ったリグが格好良くて、朱理の知る人達は皆美形、と言われる部類の人達だ。ひょっとしたらこの世界には・・・なんて恐ろしい事もちらっと考えたけど違う様で安心した。 リグと一緒に延々と続く廊下を歩きながらそんな事を考えて、ちょっと疲れたなーなんて思いはじめた頃にようやく執務室の前に着いた。 大きな扉の前には騎士が立っている。朱理からすればとっても大きい人でリグと朱理に気付いたのか、敬礼らしきポーズをしてくれた。 「リグ様、お疲れ様です。おや、こちらがお客様ですか?」 「ああ、アカリと言う。陛下は中か?」 「ええ、いらっしゃいますよ。アカリ様、こんにちは。ガーデン・ド・サウには慣れましたか?」 大きな人はわざわざ朱理の身長に合わせてしゃがんでくれた。大きい、と言うより『いかつい』怖そうな人だけど、笑顔があったかい。 「慣れたかどうかは分からないけど、楽しいよ」 「そうですか。それは良かった。さあどうぞ、陛下でしたらそろそろ休憩を取るはずですから丁度良い時間でしょう」 「それを狙って来たんだ。まあ朱理がいればいつでも休憩しそうだがな」 「・・・同意してはいけないのでしょうが、恐らくはそうでしょうね」 「今更取り繕わなくても良いぞ。さ、アカリ」 大きな扉はどうやら手動で開く扉ではない様だ。見張りの大きな人が朱理には鼻歌にしか聞こえない呪文?を唱えると音もなくゆっくりと開いた。 「すご・・・」 てっきりすごい音がすると思ったのに。思わずリグの服を掴めば、掴んだ手を握られて、そのまま執務室に入った。 中は扉の大きさに反して広くない。アシードの部屋よりは広いが、宮殿にある廊下に比べれば随分と小さく見える。 ファンタジー仕様の家具に本棚と壁側に並んだ机達。それに大きな窓がいくつか。見晴らしの良さそうな部屋で、ヴァンは部屋の中央にある重厚な机にいた。執務室と言うからには仕事をする部屋なのだろう。見渡せばヴァンの他にアシードもいるし、他にも何人か忙しそうに机に向かっていたり本棚に齧り付いていたり。 「おお!アカリじゃないか!どうしたどうした、俺に会いに来たのか?」 きょろきょろしていたらヴァンがとっても嬉しそうに立ち上がって朱理に向かってくる。両手を広げてにやにやしているから逃げようと思ってリグと繋いでいた手を離したのに、あっと言う間に掴まって思い切り抱きしめられてしまった。って言うか。 「何でダッシュすんだよ!歩いてたじゃん!」 「アカリが逃げようとするからだろ。ああいいなあ。可愛いなあ。俺もこんな可愛い弟が欲しかったなあ」 「弟ならリグがいるじゃん」 「あれに可愛いと言う言葉が似合うと思うのか?」 「うーん。リグだったら・・・格好良い?」 「言ってくれるじゃねえか」 ぎゅうぎゅうに抱きしめられたまま首を傾げれば軽く頭を小突かれた。相変わらずハイテンションで華やかな人だ。見かけはリグそっくりなのに、全然違う。 「ヴァンも格好良いと思う。でも、リグと似てるのに全然似てないんだな」 思っていた事をそのまま口に出してしまった。 「それは褒め言葉か?その逆か?」 「褒めてるよ?」 格好良い事には変わりないのだ。微妙な顔になったヴァンを至近距離で眺めていたらひょいと持ち上げられた。 「陛下、お戯れはそこまでです。可愛い弟は生憎おりませんが、可愛い妹ならサーシャがいるではないですか」 「あれは美人とゆーんだ」 「それには同意しましょう。ああ、そう言えば陛下のマールファンはどこにいますか?」 どうやら美人な妹がいる様だ。二人揃ってサーシャと言う名前に美人をくっつけて深く頷いているからすごく美人なのだろう。まあ、ヴァンとリグに似ていれば確実に美人だとは思うけれど。 今度はリグに抱えられたままで話を聞いていればヴァンの顔がイヤそうに歪んだ。 「アレならその辺に浮いてるんじゃないのか?つーか、俺のではあるが、俺のだって言うな。何かむかつく」 「どういう理屈ですか」 「だって懐かないし。つまんねーし」 ぷい、と横を向いたヴァンにリグが呆れながら溜息を落として、やっと朱理を解放してくれた。 そう言えば陛下専用、と言うマールファンを見にきたのだ。 「なあなあ、どこ?」 「さあ・・・なぜか専用なのに懐いていなくて、居場所が・・・ああ、本棚の中にいるぞ。上から3段目だ」 「どこどこ?」 色違いのマールファン。今までに見たのは水色で、羽根が白と黒。どんな色違いなんだろう。 リグが指差してくれた先を見た朱理は大きな瞳をまた、まんまるに見開いてぱっかりと口を開けてしまった。 |
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