第1部・風の宮殿、白の騎士.020




マールファン港に戻れば、やっぱりマールファン港はマールファンで溢れていた。
水色に白い羽根の水饅頭がたくさん。けれど、さっきは驚いて気付かなかった事に気付く。

よく見れば白い羽根のマールファンにもいろいろな大きさがあって、羽根の色が違うのも混じっているではないか。ほとんどは白の羽根だけれども、たまに黒い羽根のもいる。が、黒い羽根のマールファンは飛んでいるのではなくて、池に浮かんでいる。ふわふわと漂っているのはほんの僅かだ。

ふわふわと音もなく到着したマールファンから下りた朱理は、辺りを眺めて首を傾げる。その間に椅子の形のマールファンはリグの魔法で元に戻ってどこかに飛んでいった。他のマールファンと混じればもうどれがどれだか分からない。

「どうした、アカリ?」
「なんか違う色のもいるんだなーって。羽根が黒いのは何だ?」
「ああ、黒い羽根は夜間用のマールファンだ」
「へ?」

また意外な事を言われた。瞬きすればリグが近くに浮かんでいた黒い羽根のマールファンを捕まえて朱理に渡してくれる。羽根の色だけが黒で、あとは一緒。夜間用と言う事は、

「夜に飛ぶって事なのか?」
「そうだ。白い羽根のマールファンは昼間しか飛ばないからな。黒い羽根のマールファンだけが夜飛ぶ事ができる」

羽根の色が違うだけで用途も違うのか。それじゃ、他の色もあるんだろうか。って言うかよくよく見れば大きさも若干違うのがいる。大きかったり小さかったり、不思議がいっぱい浮いている。

「大きさが違うのは?」
「乗せる人数の差になる。羽根の色が違うマールファンは他にもいるが希少種になるからここにはいないぞ」
「そっかあ。残念」

本体の色が水色じゃなくて違う色だったらもっと美味しそうだったかも、なのに。なんて思っていればリグが何かに気付いた様な顔をした。

「いや、陛下の所にいるな、色違いが。アカリ、行くぞ。丁度お茶の時間だ」
「え?今から陛下の所?」
「ああ。陛下専用のマールファンがいるんだ」
「専用マールファン・・・」

なんだか偉い響きだ。促されて歩き出しながら思い浮かぶのは、なぜか偉そう=金色、なマールファンで、ついでに王冠なんか乗っかってたりしたら最高で、そう思えば楽しくなってくる。

「陛下ってどこにいるんだ?」
「この時間なら執務室だろう。さ、行くぞ」

リグに促されてまた宮殿の中に入る。が、どうやら朱理を気に入ったマールファンが何匹かいるみたいで、朱理の周りをふよふよと囲んだまま移動してくる。数えてみれば全部で4匹。みんな白い羽根のマールファンだ。

「これ、いいのか?」
「気にする事はない。勝手に離れていくが、朱理はやはりマールファンに愛されているんだな」

小さい朱理の周りをぷにぷにのマールファンが囲む。リグから見れば可愛らしい姿だ。朱理もマールファンを気に入ったのか、指先で突いてみたり軽く握ってみたりしている。

「おもしろーい・・・伸ばしちゃダメだよな」

端を摘んで思い切り伸ばしてみたいなあ。なんて思ってリグを見上げればダメらしい。残念だ。

「伸びるマールファンならその内いくらでも見られるぞ。今は突くくらいで我慢してくれ」
「はーい」

それにしても楽しいイキモノ(?)だ。
突いても握っても朱理の周りから離れない。そうこうしている内にまた宮殿内を移動するカトルガに乗る。

行きは気付かなかったが、カトルガは一方通行ではなくて、広い、朱理から見れば道路の様な廊下を何台も行き来している。一番小さなカトルガは一人乗りらしく、リグと同じ騎士服をした人が多い。大きな物は10人乗りくらいなのだろうか、白い衣装の人達が乗って音もなく移動している。

そう、この宮殿は本当に大きい。天井は遙か上。首が痛くなる。全ての天井が高くて、吹き抜けのビルみたいだ。朱理の部屋やアシードの執務室も確かに広いが、部屋の外の広さに驚く。
廊下も天井も、何もかもが広すぎるのだ。だから、こんな宮殿だと移動する乗り物がないと辛いだろうなあと思う。おまけに、道すがらあちこちを見ていれば数えるのがイヤになるくらいの扉があって、道も分かれている。

「なんか、本当に広いね。迷子になりそうだ」
「そうだな。宮殿で生まれ過ごした者でも宮殿の全てを把握するのは無理だと言われているし、私も知らない区画が多いな」
「やっぱり・・・」

綺麗だけれども恐ろしい宮殿だ。





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