第1部・風の宮殿、白の騎士.004




『え?』

その指先が、ぽう、と光を放つ。
有り得ない!驚く朱理にそれでも金髪はにこにこしたままで、何か言っている。
全く聞き取れない言葉は不思議と会話の言葉ではなく、違う言葉に聞こえた。
今までの言葉とは明らかに違う。例えるなら、歌、だ。鼻歌の様な、小さな歌声。
不思議すぎる。光る指先から目が離せない朱理に、金髪は鼻歌らしきものを歌いながら、その指先で唐突に朱理の額を突いた。
途端、朱理に軽い衝撃がくる。

「うわ!何だよ!」

驚いた。光る指先が触れた途端、身体の底を揺さぶられた様な感じがした。
思い切り身体を震わせて叫べば、金髪も、銀髪の男も驚いた顔をして、二人一緒に朱理を覗き込んでくる。

「私の言葉が分かりますか?」
「どうだ?大丈夫か?」

それから、聞かれた。分かるか?大丈夫か?

言葉が分かる!

「何で・・・分かるんだ?」
「成功しましたよ」
「良かった。言葉が分からないのは不便だからな」

呆然と呟く朱理の言葉も向こうに伝わった様だ。
安心した様にほっとする二人に、けれど朱理は驚くばかりだ。

全く分からなかった言葉が突然理解できるだなんて有り得ない。
目を見開いたまま呆然とする朱理に銀髪の男がそっと手を伸ばして朱理の頭を軽く撫でて、朱理の前に跪いた。そうして、目元を親指でそっと押さえられる。何でだろう、この男の手は温かくて、怖くない。

「そんな大きな瞳を見開いたら落ちてしまうぞ」
「瞳が落ちる訳ないじゃないですか。貴方もいい加減座って下さい。今お茶を持ってきましょう。まずはそれからです」

本当に言葉が通じる様になったのだろう、ちゃんと言っている事が分かる。ただそれだけで朱理の身体がほっと緩んだ。
何もかも分からないままで、無意識に身体が緊張していたのかもしれない。少し緩んだだけで体中が疲れたと言っている。

座っている椅子もふかふかで立派なものだ。力を抜いて背もたれに寄りかかれば、隣の椅子に銀髪の男が座った。席を立った金髪の男も銀色のトレイを抱えて戻ってくる。

「まずはお茶を飲んで落ち着きましょうか。私のお茶は美味しいですよ。と、その前に自己紹介しますね。私はアシード・ロイ。どうぞアシードと呼んで下さいね」

金髪の男はアシードと言うらしい。小さなテーブルにトレイを乗せたアシードは最初に朱理にカップを差し出して、それから銀髪の男にもカップを渡した。
受け取ったカップは朱理には大きいけれど、暖かい。ほう、と息を吐けば隣から静かな声が聞こえた。
「私はリヴィガルファ・イーグル。リグで良いぞ。長いからな」
「無理すると舌を噛みますからねぇ」

銀髪の男はリグ。正直朱理には長い名前が良く聞き取れなかった。

アシードとリグ。最初に会ったのが銀髪のリグ。言葉を分かる様にしてくれたのが金髪のアシード。噛みしめる様に二人の名前を呟けば、金色と水色の瞳がじっと朱理を見つめてくる。

「オレは、朱理だよ。で、聞きたい言葉いっぱいあるんだけど」

言葉が分かれば質問ができるし、理解できる。リグとアシードを見ながらカップに口を付ければ、優しくて甘い味がした。





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