フルムーン・シフォン1


宮殿は猫の国、湖訪の中心部で世界でも有名な宮殿の一つだ。働く人達は国の中でも偉い人が多くて、長男の李織は騎士をしている自慢の兄だ。

普段着から宮殿に行くからと着替えた瑠璃と風莉は仲良く手を繋いで街を歩いている。差し入れは紗衣の手料理と日持ちするパンとお菓子だ。城下町でも評判の美味しい料理はとても好評で、日持ちするパンは多めに持たされた。荷物のほとんどを瑠璃が持ってくれて、風莉は軽いお菓子を持っている。

湖訪国の城下町は毎日がとっても賑やかで、風莉には慣れた煩さだ。この人の声がたまらなく心躍らせる。
ふさふさの尻尾を機嫌良さそうにふりふりしていれば瑠璃に笑われた。

「全く、宮殿では大人しくしてろよ、風莉」
「してるもん」
「ウソつけ。この前行った時は珍しい鳥を追いかけて宮殿の中で捜索願出されたくせに」
「・・・あれは冒険してたんだもん」
「それを世の中では迷子って言うんだぞ」

李織には近い事もあって頻繁に差し入れを持っていっている。主に風莉が差し入れを運ぶ役目をしていたのだが、どうにも好奇心旺盛であっちにふらふら、こっちにふらふらしているうちに李織に探されてしまう。
国の中枢部だが割と出入りは自由で、宮殿の表側なら誰でも出入り自由だから、余計に風莉の好奇心に火が付いてしまうのだ。

そんな訳だから普段は一人なのに瑠璃と言うお守りがついたのだろう。
まあ、いつも風莉を送り出してくれる紗衣も奈々もどうやら王様と何かあったらしく、軽く嫌がらせの意味も含んでいるから、風莉にはとっても自由にふらついてこいとの命令も下されていた。

「まー、しょうがないっちゃしょうがないけどなぁ」

とりとめもなくそんな話を瑠璃に報告すれば苦笑混じりに溜息を落とされてしまった。首を傾げればまだ風莉には早い話だそうだ。

「李織兄ちゃん、元気かな?」
「一週間前に会ったばっかだろ」
「でも忙しそうだから、気になるんだもの」
「騎士は激務だって言うしなーっと。ほら、喋ってる間に着いたぞ」

本当だ。食堂から宮殿までは歩いて30分もないからすぐだ。ででんと構える立派な門は今日も開け放たれていて、沢山の人が出入りしている。

宮殿は他の国には見られない青い石で造られていてとても美しい。まあるいデザインで青い石に白の飾りがある。それは内部でも統一されていて、青の宮殿と呼ばれている。
沢山の人に紛れて宮殿に入ればまず受付をして、それから内部に通される。瑠璃と風莉は一般の人が出入りする区画の中でも一番奥に行く。待合室と呼ばれる部屋で、李織が来てくれるのだ。

「風莉、ちゃんと待ってろ・・・って、何でもういないんだアイツは!」

宮殿に入って僅か五分。受付をしたり顔見知りの騎士や文官と挨拶をしていればもう風莉が瑠璃の手をすり抜けてしまった。
しかも、ご丁寧に繋いでいた手には身代わりが、風莉お気に入りの小さな人形が握られているではないか。

「くそ、確信犯か」

のんびりして見えて意外と風莉は賢い所もある。最もその賢さはこんな悪戯ばかりに発揮されているが。

「ま、見つからなかったらまた捜索願出すか」

はーと溜息を落とした瑠璃は握っていた人形を懐にしまって苦い笑みを浮かべた。宮殿をうろちょろするのは良くないと思うが風莉はとても目立つし、何よりこんな事も初めてではない。常習犯だ。その内顔見知りの騎士にでも運ばれてくるのだろうと軽く考えた。








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