feeling heart to you
49/エピローグ、それから




「・・・よりにもよってアレを持ってくるなんて」
「だって一番綺麗じゃない」
「売り上げも過去最高だったしな」

僕の手の中にさっきの雑誌がある。
1ページ1ページを捲ってじっくり見ながら、どうしても横目で一留を見てしまう。

一留は雑誌を僕から取り上げようとしたんだけど、颯也さんと綾宏さんの2人に止められて今はソファのすみっこでいじけてる。
ちょっと悪いなぁって思うんだけど、でもどのページの一留もとても綺麗で僕は目を離せない。

「一留、綺麗だ、よ?」
「・・・・さんきゅ」

心の底からの言葉だけど、一留はどうも違う風に受け取っているみたいでますます身体を縮込めてしまう。
僕、悪い事言っちゃったのかなって思って、もうこれ以上見るのは止めようと雑誌を閉じた。

「違うぞ、錬。こいつはなぁ、錬の前では格好良く居たいんだよ」
「そうそう。好きな人の、守りたい人の前では綺麗、よりも格好良く逞しく、ってね」

俯いた僕に明るい声がかかる。
顔を上げると2人とも笑ってる。

「あの雑誌はフランスで発売してたファッション誌の特集号だ。俺と一留のツーショットのみ。発売当時はえらい騒ぎになってな、賑やかだったぞ」
「一留君、元々は普通のメンズモデルさんなんだけど、ドレスを着ても似合うって言うんであの雑誌以来、ドレスとの半々になったんだよ」
「・・・・くそう。ドレスが似合うって言われてうれしがる野郎がいるかよ」

笑いながら説明してくれる2人に対して一留はやっぱり拗ねたまま。
でもソファのすみっこから復活して僕の隣に来ると僕の肩を引き寄せてくれた。

「見たいんなら俺の居ない所で見てくれ」

でも言葉はまだ拗ねてる感じ。

「僕、ドレスじゃない、一留も見たい」

ドレスの一留も綺麗だけど、違う、男の人の服を着ている一留は格好良いんだろうなって思って一留を見上げたら、一留はあからさまに喜んで僕をぎゅうぎゅう抱きしめてきた。

「れーん、さんきゅ、ありがとなー。やっぱ錬は良い奴だ。何処かの誰かさんとは全然違うぜ」
「ちょっ、一留?」

苦しいくらいに抱きしめてくれる一留の背中を叩くけど、一留はびくともしない。
慌てる僕に颯也さんと綾宏さんは気が済んだのか、立ち上がって一留に抱きしめられたままの僕の頭をぽんぽんって撫でてくれた。

「じゃ、今日は帰るな。今度はちゃーんと普通の服着てる一留が写ってるやつ持ってきてやるから楽しみにしてろよ」
「一留君、ほどほどにね」

それぞれ好き勝手に声を掛けてさっさと帰ってしまう。
今日はいったい何をしにきたんだろう?
首を傾げる僕に一留は抱きしめてる力を抜いて僕の顔を覗き込んできた。

「あのな、実は俺、錬のビデオ見たんだよ。だから彼奴らあの雑誌持って来たんだ」
「え?」

僕のビデオ?
瞬時に心が冷える。
だって、僕のビデオって言ったら。

「錬の仕事してた所知らないって言ったら颯也が持ってきてくれてな。錬の居ない時に一人で見た」

僕のビデオを見た?
あの、アイドルだった僕を?
下手くそな歌を歌っていた僕を?

「あ・・・」

声の出なくなる僕に一留は優しく微笑んで、触れるだけのキスをする。

「格好良かったぞ。テレビって案外大きく見えるんだな。こんなにちっこいのに錬がすごく大きく見えた・・・・それに、可愛かったなぁ」

僕のビデオは沢山ある。
どのビデオを見たのか分からないけれど、どのビデオも・・・一留には見られたくは無い。
そんな僕の心中を察しているのかいないのか、一留は上機嫌で僕を抱きしめたまま持ち上げて、すたすたと移動してしまう。

「一所懸命歌って踊って。俺、改めて錬に惚れ直したよ」

一留の声が囁く、低い声になる。
この声は・・・夜の声。
低い一留の声を聞いただけで顔を赤くする僕に一留は微笑んだままキスをして、辿り着いたベットにとすん、と僕を下ろす。

「い、ちる?」

な、何でいきなり・・・。
訳が分からなくて慌てる僕に一留は覆い被さって僕の服を脱がしてしまう。

「愛してるよ。錬。誰よりも、お前だけを・・・・でも、今日のアレは出来れば忘れて、な」
「え?え?え?」

何で、何でいきなりこうなるの?
全く訳の分からない僕に一留は微笑むだけで何も言ってはくれない。
慌てふためく僕に手を伸ばした一留は全く容赦が無くて・・・。
何も考えられないままに、全ての感覚を一留に持って行かれて、一留に染められるままに真っ白になっていった。






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