feeling heart to you |
50/エピローグ、それから
|
未だに癒えることの無い傷がある。それは昔の事だとか、記憶だとか。 昔の事に付随する事は僕にとってはまだ、正面から見る事の出来ない傷を含んでいる。 それを一留は分かっているみたいで、折に触れてこんな風に昔の話を持ち出して何気なく僕に傷を感じる事を教えてくれる。 ただ痛いだけじゃなく、傷を癒そうとしてくれてる。 一留も、自分の傷を癒そうとしているんだろう。たまに昔の話をする事がある。 そんな時、僕はただ黙って聞くことしか出来ないけれど、なるべく一留の手を握ったり、一留に抱きついていたりしながら聞いている。 それが役に立つかどうかは分からないけど、一留は話し終えても、もう、苦しい顔をする事は無くなった。 だから、今日の雑誌もおあいこ、って事なんだと思う。 僕の昔を見たのだから、自分の昔も、って。 そんな所に一留の優しい気持ちを感じる。 僕は何も出来ないのに、本当にいいのかなって思ってしまう。 一度、どうしても不安で一留に聞いた事があったけど、一留は泣き出しそうな僕に暖かい微笑みを浮かべながら錬は今のままでいいんだよって言ってくれた事があった。 それでも僕は考えてる。僕が一留の為に出来ること。 そんな事を思いながら、目が覚めた。 真夜中。 何の音もない、しんとした空気の中、大きなベットのふかふかのお布団の中、僕は一留の腕の中でぬくぬくしてる。 そっと身を捩って手を伸ばして一留の頬に指先で触れる。 安らかな寝息を立てる一留。 気持ちよさそうに寝てる。 最近は魘される事も無くなって、朝までぐっすり寝てる。 僕は偶にだけど夜中に目を覚まして、こうして一留をさわって1人で喜んでる。 指先から感じる一留の温度。微かな寝息。それが、とても幸せ。 今でも夢の中で仕事に追われる夢を見る事がある僕は、夜中に目を覚まして一留に触れてようやく安心する。 寝てるのに僕をぎゅうって抱きしめてくれる一留の腕。 その中で一留に触れてようやく安心する僕。 まだしばらくは、こんな風に一留に触れて安心しなくちゃ眠れないんだろうって思うけど、最近はちょっと違う。 夜中に目を覚まして一留に触れるのが安心する為じゃなくて、幸せを感じる時間になってる。 朝までぐっすり眠っちゃったらこうして一留にさわる事が出来ないから。 朝だって昼だって夜だって、一留が起きてる時にだって触れるけど、こうして眠ってる一留を触る事が出来るのは夜中だけ。 指先に一留の頬の感触とか、唇の温度とか、寝息のくすぐったさとかを感じる事。 そんな事を出来るのはこの時間だけ。一留の腕の中で感じる事が出来る幸せ。 夢を見て悲しいとか辛いとか、どうしても起きた瞬間には心に痛みが残っているけれど、起きてすぐに感じられる幸せがあるから、僕は夢を見るのも怖くなくなった。 一留、大好きだよ。 唇の動きだけで一留に告げて、指先を戻してそぉっと一留に抱きつく。 大好き。 一留の温度と一留の匂いを感じながら僕はあっという間に眠りに落ちる。 今度見る夢は一留の夢を。 朝目覚めたら一留の笑顔を。 まだ歌は歌えない。 いつか、この真夜中の時間にこっそり歌を歌えたらって思ってる。 安らかに眠る一留の為に・・・本当は、起きている時に聞いてもらうのが一番なんだろうけど、まだそこまでの勇気はないから。 「すき、だい、す・・・き・・・」 小さくこぼれ落ちた自分の声を聞いて、目を閉じる。 目覚めればまた、大好きな人の温もりと笑顔がある事を想像して。 一留の胸に鼻先を押しつけた僕の頭の天辺に、柔らかい感触が触れて、僕はとても安心して、夢に落ちた。 |
end |
...back |
>>あとがき な、長かったですね・・・(汗)当初の中編くらいで〜なんて思ったた自分が恨めしいです。でもって、ここまでこの長い話を読んで頂いてありがとうございました!本当に本当にありがとうございました! |