feeling heart to you
48/エピローグ、それから




僕と一留の生活は毎日がとても穏やかで、とても優しい。
毎日離れる事無く、手を伸ばせばすぐに一留に触れられる距離で暮らしてる。

「ほんっとにラブラブだよねぇ」

珈琲のカップを持った僕に笑いかけるのは綾宏さん。

「俺達も見習うか」

その隣でにやりと唇を上げるのは颯也さん。

あの宿で出会った二人は今でも頻繁にこの部屋に来て僕と一留を構ってくれる。
僕は颯也さんと綾宏さんのお友達、になったみたいで一留に買ってもらった携帯電話には一留の番号と、元マネージャーになる峯川さん、それから颯也さんと綾宏さんの番号も入っている。

「来るたんびに同じ台詞言ってんじゃねーよ」

一留が呆れてる。
僕は一留の隣でお土産のケーキを突きながら3人の会話を楽しく聞いてる。
相変わらず3人で話してる会話はとても面白くて僕は口を挟む事無く黙って聞いているのがとても楽しい。

しばらくは何だかんだと騒いでいたんだけど、少し喋って落ち着いたのか、颯也さんが一冊の薄い雑誌をテーブルの上に乗せた。

「今日はちょっと面白いのを持ってきたんだぜ。その雑誌、懐かしいだろ?」

何故か颯也さんは一留を見てにやりと笑う。
何だろう、何だか悪巧みをしてるって顔だ。
この薄い雑誌に何かあるのかなって手を伸ばしたら、とても素早い動きで一留が雑誌を引ったくった。

「手前っ、何で持ってるんだよ!」
「一留?」

驚いた。
普段滅多に怒鳴る事をしない一留が颯也さんに怒鳴ってる。
しかも、顔が赤い。
取り上げた雑誌を丸めて手に握って、今にも唸りそうな勢いで颯也さんを睨んでる。

「懐かしいだろう。ほら、やっぱり物事はフェアに行かないとなぁ」

引き続き颯也さんはにまにましてる。
格好良いのに颯也さんはこんな意地悪そうな表情がとてもよく似合う。

「くそっ、何がフェアだよ!何でこんなん持ってるんだ!捨てたんじゃなかったのかよ!」
「捨てる訳がないだろう」

大袈裟に肩を竦める颯也さんに一留がぎゃんぎゃん怒鳴ってる。
・・・すごく珍しい風景だ。

驚いて固まっている僕に綾宏さんが静かに席を移動して、僕の手を引っ張って賑やかな2人から離れた所でにっこりと微笑んだ。

「これ、一留君の昔の仕事だよ。見たこと無いだろうからって持ってきたんだ」

ぱちん、と綺麗にウインクした綾宏さんが一留が持っているハズの雑誌と同じ物を僕に手渡してくれた。

「一留の、しごと・・・」

そう言えば一留はモデルだった。
でも僕はまだ一留の仕事をしている姿を見た事は無い。
手渡された雑誌の表紙。
英語らしい文字が一面にあって、外国の雑誌なんだって分かる。
表紙には、とても綺麗な、真っ黒なドレスを着た女の人と、同じく真っ黒いスーツを着た男の人が寄り添う様に立っている。
女の人は身体全体を覆う真っ黒い、レースの沢山あるドレスを着ている茶色い髪の毛の人。
瞳は青くて、真っ赤に塗られた口紅がとても色っぽい。
顔立ちは外国の人だけど、とても綺麗。

男の人は髪の毛も真っ黒で、どうやら東洋人らしい・・・・違う、これは颯也さんだ。
今は髪の毛を金色に染めてるけど、真っ黒い髪の毛の颯也さんは、ぞくっと来るくらいに格好良くて、綺麗。
でもこれは一留の仕事って言ってた。
中身に一留が居るのかなって思ってページを捲るんだけど、どのページにも表紙の女の人と格好良い颯也さんだけ。

「あの、これ」

何処にも一留が居る様には見えない。
分からなくて綾宏さんを見ると何故だか綾宏さんは今にも吹き出しそうな顔をしてる。

「綾宏さ、ん?」

何でそんな顔をしているんだろう?
首を傾げる僕に綾宏さんは笑いを耐えた声で表紙の女の人を指さした。

「この人はアレクシって言う人だよ。主にヨーロッパを中心に活躍してるスチールモデルさんでね、偶にショーにも出ていたけど主な活躍媒体はポスターや雑誌・・・・で、ね」

何故だか女の人の説明をした綾宏さんは、笑いを無くす様に一度深呼吸する。
でも表情は笑みを耐えたまま、ゆっくりと、けれど小声でもう一度表紙の女の人を指さした。

「これ、一留君。彼の仕事の半分はこういうドレス姿だったんだよ」
「・・・・・・・・え?」

今、綾宏さんは何て言ったの?
目を見開いて綾宏さんを凝視する僕に綾宏さんはとうとう笑い出してくすくすと声を漏らしながら表紙を捲る。
つられて中身を見るんだけど、何処にも僕の知ってる一留は居ない・・・。
黒いドレス、深紅のドレス。
色の激しいドレスばかりを纏った、とても綺麗で色っぽい女の人が次々と僕の視界に移る。

「ほら、良く見て、ドレスだけど案外ごいついでしょ?」

指さす先を見れば、確かに女の人は細くて華奢だけど・・・その、体つきは案外しっかりしてて・・・・。

「いち、る?」
「そう。一留君」
「・・・一留?」
「そう。綺麗でしょ?」
「・・・・・ええっ!?」

やっと綺麗な女の人=一留、と言う図式が成り立った僕は思わず悲鳴を上げて雑誌を見る。
どのページにも居る綺麗な女の人。
確かに、よく見れば身体付きは女の人じゃないし、ドレスも身体全体を覆う極端に露出の少ない物で、髪の色も目の色もどう見ても一留の色。

でも、これが、この綺麗な人が、一留?

「みーたーなー」
「ひゃっ」

驚きすぎて全く周りの見えていない僕の背後にいつの間にか一留が居る。
僕の背後から雑誌を除き見て恨めしそうな視線を綾宏さんに向けつつ、僕を抱きしめて雑誌を取り上げてしまう。

「あ」

まだ見てる途中なのに。
手を伸ばしても一留は返してくれなくて、ぞんざいな仕草で雑誌を後ろに放り投げてしまった。






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