feeling heart to you
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何となく落ち込む僕に対して颯也さんと綾宏さんは何処までも元気だ。

「俺らはちょっくら観光でもしてくるわ」
「折角の海だしね。美味しい物と美味しいお酒探してくるね」

ちゃちゃっと浴衣に着替えたのだろう。
二人とも旅館の浴衣でしゅたっと手を挙げて宿を出て行く。
あっけにとられる僕だけど、一留は清々したって言いながら僕の服を脱がせて、浴衣を着せてくれた。
いつもの、お腹の前の蝶々結びの浴衣。

「お疲れ。頑張ったな」

一留の部屋。
向かい合わせに座って一留が頭を撫でてくれる。

「んでな、これからの事、ちょっと相談しよう」

そうして、長い話をした。
考えるのが怖かった、これからの事。

一留は随分前からこれからの事を考えていてくれたみたいで、僕がうじうじと悩んでいる間にいろいろと、颯也さん、綾宏さん、そして、峯川さんまで巻き込んで相談していたみたい。
僕が何も出来ずにただ一留にひっついていただけだったのに、そう思うと申し訳なくて。
思わず謝ってしまうと一留は苦笑して、軽く僕の両手を握ってくれた。

「いーのいーの。俺が勝手にやりたかったんだから。錬は何も心配すんな」
「でも、僕の事もあるのに・・・」

そう。僕に関わる問題は少なくない。
仕事の事や父さん、母さんの事もある。社長の事だって事務所の事だって。

「いいんだよ。それは錬がやる事じゃないんだよ、本当は。そっちはマネージャーがやってくれるって言ってたし、だいたい未成年じゃ出来る事にも限りがあるだろ?」
「そ、だけど・・・」

でも、どうなるんだろう。
峯川さんだけが大変なんじゃないのかな。きっと大変な騒ぎになっているだろうに。

「いいの。アイツは好きでやってるんだから。後で錬から電話でもしてやればそれだけで喜んでくれるさ」

煮え切らない僕に一留が優しく諭してくれる。
本当に、僕は何も出来ないんだ。
これからの事の何一つ分からずに、ただ怯えるだけで何も出来ない。

「そんな顔すんな。子供は子供らしく面倒事はぜーんぶ大人に押しつけていいんだよ」
「でもっ」
「いいんだ。錬は錬に出来る事をやればいい。これからだって、出来る事は沢山あるぞ」
「・・・・・うん」

これから僕に出来る事。
いったい何が出来るんだろう。今考えても何も、思い浮かばないけど、これから、何か思いつくのかな。

「これから考えればいいよ。だから、取り得ず今は俺と一緒に海に行く。いいな?」

ぐるぐると考え込む僕に一留は優しいキスをくれて、僕を海に連れだした。




海は毎日行っていた。

からん、ころんと二人分の下駄を鳴らして、僕と一留は街を歩く。
もう夕暮れになっていて、風が少し冷たい。

もう店仕舞いをしてしまった小さな街はとても静かで寂しい。
けれど、真っ赤に染まった街並みはとても見慣れた風景で、一留に手を引かれながらゆっくりと砂浜に向かう。

風が冷たくて、でも繋いだ手は温かくて。
僕と一留はどちらともなく視線を合わせては微笑み合って、下駄を鳴らして歩いた。

砂浜に着けば、下駄を脱いで手に持って、さくさくと真っ赤に染まった砂の上を歩く。

いつもの定位置になってる岩の上に一留が座って僕に両手を広げる。
僕も下駄を下ろして一留に抱きつくと、一留が真っ赤に染まった瞳を細めて、キスをしてくれる。
ゆっくりと唇を合わせて見つめ合って。
おでことおでこをぴたってくっつけて微笑んで。
無言の時間をゆっくりと過ごしながら僕と一留は何度も何度もキスをする。

指先を一留に伸ばして、きらきらと輝く髪の毛に絡めてみたり、一留の唇に触れてみたり。
一留も僕に沢山触れて、沢山キスをする。

言葉もなく、交わす視線だけで一留の全てが分かりそうな、時間が止まってしまったかの様な中で、僕と一留は何度も、何度もキスをした。






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