feeling heart to you
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ざざん。と、海の音がする。
毎日聞く音。静かではないけれど、落ち着く、おと。

開けっ放しにした窓に一留が寄りかかって、その腕の中に僕が居る。

「夜の海は怖いな」
「真っ暗、だから・・・ね」

潮風が一留の長い髪を揺らしてる。
灯りも消して、月明かりだけが静かな部屋を照らしてる。

一留の浴衣をぎゅっと握って、背中には一留の手を感じて、僕と一留はずっとこうしてる。

時刻はもう日付を越えて、僕は今日、あの場所に行く。
帰ってこれない訳じゃないのに、どうしても眠れなくて随分と長い間お布団の中でもぞもぞしてたら一留も眠れないんだって言って、こうして窓辺で抱き合ってる。

視線を上げて一留の顔を下から見る。
青白い光に照らされた一留はとても綺麗。
顔のカタチ、曲線、真っ直ぐに夜の海を眺めてる、今は暗い色になっている真っ青な瞳。
風に揺れる長い茶色の髪。
一留の全てがとても綺麗。

「どした?見惚れたか?」

そんな僕に一留が微笑みながらおでこにちゅって唇を落とした。
一留に触れられた所からじわじわと暖かくなっていく。

「一留、きれい」

微笑んだその表情がとても綺麗。
うっとりと呟く僕に一留は目を見開いてから、声を上げて笑う。

「そりゃありがとさん。でも綺麗ってより格好良いって言ってくれた方が嬉しいんだけどな」

笑いながら今度は唇に軽いキスをしてくれる。

「格好、良い、よ?」

言い直せばさらに一留は楽しそうな笑みを見せる。

「錬も可愛いぞ」

笑いながら何度もキスをしてくれて、僕は目を細める。
そのうちキスは深くなっていって、完全に目を閉じた僕はただ一留から受けるキスに甘えて一留に抱きつく。
しばらくそうやって深いキスを交わして、どちらとも無く唇を離して微笑み合う。

「僕、も、格好良い、ほうがいい」
「だよな。うん。錬は格好良いぞ」

思い出した様に呟く僕に一留も合わせてくれて、また2人でおでこをくっつけながら微笑み合う。


これから、どうなるんだろう。
あの場所へ行ったら一留の所に戻れないんじゃないか。
不安がむくむくと僕の中に生まれては、そんな事無いって必死に押さえ込む。
一留の温度を感じて、必死に不安な思いを消す。

一留と僕。
この宿の中だけの関係。
僕は一留の何も知らない。
この先、どうするかなんて、何も分からない。分からないから・・・怖い。

「錬?どした?」

むくむくとわき上がる不安がどうしても抑えきれなくて、思い切り一留にしがみついたら一留は優しい声で僕の背中を、髪を撫でてくれた。

結局、この夜は朝まで眠れなくてずっとずっと一留に抱きついてた。
身体が勝手に一留の事を覚えている様にと。
一留の温度を覚えて置くんだって、言い聞かせる様に。

いつ離ればなれになっても、覚えておける様にって。




朝が来た。
眠れなくてずっと一留に抱きつきながら起きていたハズなのに、いつの間にか眠っていたらしい僕は一留の声じゃなくて、颯也さんと綾宏さんの声で目が覚めた。

「おはよう、錬。目の下にクマが沢山いるぞ」
「錬君おーはよう。若いんだから目の下にクマさんなんか飼ってちゃダメだよ?」

2人とももうびしっと起きてるみたいで、颯也さんは昨日と同じ旅館の浴衣を。綾宏さんは白いシャツにジーンズといった格好で布団に転がってた僕を覗き込んでる。
寝坊しちゃったのかなって慌てて起きあがると、2人の後ろに峯川さんまで居てさらに驚いてしまう。

「おはようございます。錬君。寝癖、ついてますよ」

にっこりと笑ってる峯川さんはいつもの黒のスーツをびしっと着てる。
そうだ。今日、僕はあの場所に行くんだ。
峯川さんの顔で思い出した僕にみんなの後ろから一留が顔を出した。

「おーはよう。あんま寝てないけどもう起きないとな。ほら、風呂入って着替えるぞ」
「・・・お、はおよ」

一留の笑顔が眩しい。
あんまりにもいつもと変わらない笑みと言葉で僕は一瞬みんなの存在を忘れてしまう。
けれどすぐ側にいるのに完全に忘れる事は出来なくて。

「お風呂、入る時間あ、るの?」

寝坊しちゃったんじゃないかって、峯川さんを見たら、お風呂くらいなら大丈夫ですって言われて、僕と一留はお風呂に向かった。






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