feeling heart to you
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それから、僕と峯川さんは手を繋いで来た道を戻って宿に帰った。

帰る途中、峯川さんは一言も喋らなかった。
ただ黙って街のお店を横目で見たり海を見たりしながら歩いてた。
何かしら考える事があるんだろうと思う。
僕もあっちこっちを横目で見ながら、けれど久しぶりに峯川さんと手を繋げて、ちょっとだけ嬉しかった。

「明日、来ますから」

宿の前。峯川さんは一度帰って明日、迎えに来る。明日は会見をする日。
僕は旨く喋れるのかどうか、分からないけれど、行かなきゃいけない。

「うん。待ってる、ね」

峯川さんを見上げて頷く。

「・・・私も、私に出来る事を考えます。だから、明日は一緒に頑張りましょう・・・なんて、私の言う台詞では無いでしょうけどね」
「そんな事な、いよ。一緒、に頑張ろう?」

自嘲の笑みを浮かべる峯川さんの手をぎゅっと握って、大きく声を出す。

「ありがとう、錬君。それじゃ、また明日」

すると峯川さんはすごく嬉しそうに微笑んで、僕の手をぎゅっと握り返すと静かに歩いていった。

「良くできました。頑張ったね、錬君」
「綾宏さ、ん」

じっと峯川さんの後ろ姿を見てたら後ろから綾宏さんに抱きしめられた。
そうだ、ずっと付いててくれたんだ。

「偉い。錬君、格好良かったよ」

そう言えば綾宏さんも大きい。
僕はすっぽりと綾宏さんの腕の中に入って、ぐりぐりと頭を撫でられてしまう。
嫌じゃないんだけど、でも何だか恥ずかしくて、ばたばたと暴れる僕に綾宏さんは笑いながら僕の髪をぐしゃぐしゃにしてしまう。

「何してんだ、こら!錬を離せ」

するといつの間にか一留が綾宏さんから僕を引き離して抱きしめてくれる。
あっと言う間に一留の腕の中に仕舞い込まれて、けれど慣れた温度と匂いに思わず安心してしまう。

「浮気は良くないぞ」

綾宏さんは苦笑してる颯也さんに手を引かれて、僕と同じ様に抱きしめられてる。
・・・でも2人とも、とても格好良くて綺麗だから、見ているのが恥ずかしい。

「あらあらあらあら。なーに玄関先でいちゃついてるんのよ!おばちゃんに見せつけてないでさっさと中にお入り!もうご飯にするんだからね」

僕は一留の腕の中。綾宏さんは颯也さんの腕の中。
玄関先でおばちゃんに笑われて、思わず僕は顔を赤くしてしまうけれど、向こうの2人はにっこりと微笑むだけで何ともないみたい。
一留もただ笑ってるだけで、顔を赤くしたのは僕だけだった。

「もうそんな時間なんだな。じゃ飯食うか。いっぱい食うんだぞ」

一留は毎日同じ事を言う。
まるで挨拶みたいな同じ言葉に、今度は僕が笑っちゃって、けれどそんな当たり前に聞こえる言葉が嬉しくて、一留の腕に掴まりながら宿に入った。


やっぱり2人から4人になると賑やかだ。

晩ご飯のおかずもいつもと一緒。
お刺身と焼き魚と煮物、それにご飯とおみそ汁とお漬け物。
僕と一留は何も言わずにおかずを交換するんだけど、今日は颯也さんと綾宏さんと言う強い味方が居て、2人とも呆れながら一留のお刺身を引き受けてくれた。

それからまた賑やかなお風呂になって、散々4人で騒いでから、ようやく一留の部屋に戻ったのはもう眠る時間だった。

部屋にある小さなテーブルには食後のデザートになるアイスが4つ置かれてる。
見かけによらず甘い物が大好きだって言う颯也さんはいつの間にか温泉饅頭を買っていたらしく、アイスの隣に温泉饅頭が足されてた。

「明日、行くのか」
「うん、明日、峯川さんと一緒、に行くんだ」

峯川さんとの話を一留に伝えると一留はよくやったぞって撫でてくれた。

「でも、記者会見は難しいんじゃないのか?」

颯也さんがお饅頭をぱくつきながら心配そうに僕を見る。

「そうだね。それで受け答えはちょっと難しいと思うけど、あのマネージャーさんは何か違う事考えてるみたいだったよ」

綾宏さんは浴衣をくつろげて、窓辺に座って煙草を吹かしている。

「心配してるみたいだったしな。何か違う方法があるといいんだけど」

一留がアイスを掬って、前みたいに自分で食べるついでに僕に差し出すから、僕は一留の差し出してくるスプーンを銜えて一留を見上げる。

「明日は錬の戦いだな。一緒にいけなくてごめんな」
「そ、んな事ないよ」

明日、一留は宿に残る。
傷の事もあるし、あまり人の多い所に出るのはまずいんだって颯也さんから教えてもらったから、僕は1人で行く。

でも、僕があの場所に行けるのは一留のおかげ。
逃げるんじゃなくて、ちゃんと自分から行こうって思えたのは一留のおかげなんだよ。
そう思いながら一留を見つめると、一留は柔らかい笑みを浮かべて僕の頬にキスしてくれた。

「お前ら、ナチュナルにいちゃつくなよ・・・」

そんな僕と一留を見て颯也さんが溜息を吐いてる。

「まあまあ、そう言わないの。でもホントに可愛いよねー」

煙草を吸い終わったのか、綾宏さんが笑いながら僕の頭を撫でて、一留に睨まれる。

そう言えば、初めの頃は恥ずかしいって思ってた一留からのキスも今では当たり前みたいに感じて、恥ずかしくなくなってる。
それだけ沢山キスをしたんだろうか。
そう思うとじわじわと、恥ずかしくなってきて。

「今頃照れるなよ」

颯也さんが呆れた声を出す。
やっぱり顔が赤くなってるみたいで、思わず両手を頬に当てるとみんな声を上げて笑った。



「んじゃぁ寝るか。俺と綾宏は隣に居るからな」
「じゃあね。また明日。あ、そうそう、明日も僕お供するからよろしくね」

ひとしきり部屋でも騒いで、時計が深夜を告げる頃、颯也さんと綾宏さんは仲良く隣の部屋に消えた。

途端に静かになる部屋。
僕と一留は顔を見合わせて、自然に笑みが浮かんだ。

そして、言葉もなく、一留の顔が近づいてきて、今日始めて、唇に受けるキスをした。






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