feeling heart to you |
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峯川さんは僕のマネージャー。 いつも真っ黒のスーツをびしっと着てて、真っ黒い髪の毛を少しだけ崩したオールバックにしてる。 トレードマークの縁なし眼鏡は峯川さんをとても格好良く、知的な人に見せる格好のアイテムだと思う。 けど、この温泉街や、畳の部屋にはどうしても似合わなくて、峯川さんの存在だけが浮いている様に見えてしまう。 「どうして増えているんですか」 宿に来る早々、峯川さんは挨拶の言葉も無く僕達を見て驚いてる。 そりゃそうだろう。 昨日は僕と一留だけだったのに、今一留の部屋には4人がぎゅうぎゅうになってるんだから。 しかも僕以外はみんな大きな人で、部屋の密度は高い。 「細かい事は気にすんなって」 一留が苦笑して峯川さんを手招きする。 峯川さんも一留の正面にぴしっと正座で座るけど、一留の隣に居る僕や、その後ろで控えてる颯也さんと綾宏さんが気になるみたい。 「あの、後ろの方々は」 「置物。気にすんな。それよりも、錬」 一留が僕の肩を抱いて頷く。 僕も頷く。 昨日出来なかった事をする為に。 「みねか、わ、さん」 なるべく笑顔で。 小さいけれど、はっきりと声を出した僕に、峯川さんの目は見開かれた。 「れ、ん・・君」 「ご、め・・・ね?」 「声、出る、様に・・・」 峯川さんの肩が震えてる。 ・・・やっぱり、この人は僕を心配してくれていたんだなって、どうしてだか分かってしまう。 あっと言う間に、普段、絶対取り乱したりしない峯川さんの表情がくしゃりと歪んで、俯いた。 僕は一留の背中を軽く押されて峯川さんの前に躙り寄る。 何も言えずに震えてる峯川さんの、膝の上に置かれた拳をそっと握った。 ひくり、と、峯川さんが揺れる。 「ごめ・・・ね。ちゃんと、喋れるんだよ」 「錬君・・・」 ちゃんと、って言ってもまだまだだけど、それでも僕は声を出す事が出来んだよって、俯いてる峯川さんの顔を覗き込んだら、峯川さんは、静かに涙を流していた。 「みね、かわさ、ん・・・」 びっくりした。 だって、峯川さんが泣いちゃうなんて・・・。 驚いて固まる僕の背中を一留が軽く叩く。 「嬉しいんだよ。大の大人が無くくらいに嬉しいんだよ、きっと」 そう言って、一留は峯川さんの肩も叩いて、とても優しい笑顔で顔を上げた峯川さんに頷いた。 「よか、った・・・。もう、一生・・・駄目、かと」 掠れた、涙声の峯川さんの言葉に僕の胸が痛む。 そして、僕は始めて声を失った事でどれだけ傷付いた人がいたんだろうって、本当に、今更ながらに考えてしまった。 だって僕の声は僕が自分自身の手で失ったのだから。 辛くて、悲しくて、耐えられなくて、勝手に失ったものだから。 僕の事なんて、誰も気にしないだろうって思いこんで・・・。 「ごめんね、沢山、心配かけ、たよね」 「いいえ、いいえ・・・」 力無く首を振る峯川さんの様子に僕まで涙が滲んできそうで、ぎゅっと目をつぶる。 そうしたら一留が頭を乱暴に撫でてくれた。 その力強さで辛うじて涙を止める。 「僕、峯川さ、んと、ちゃん、と話したい」 「・・・ん。そだな。ちゃんと言いたい事言ってくるんだぞ」 この場所ではきっと峯川さんが緊張するだろうから。 そう思って一留を見れば一留は分かっていたのか柔らかく微笑んで、おでこに軽いキスをしてくれた。 まだ震えてる峯川さんの手を握って、外へ行こうと促す。 峯川さんは涙目で一留を見上げるんだけど、一留は軽く頷くだけ。 何だろう? 首を傾げる僕に今まで黙ってた綾宏さんが軽く手を挙げた。 「あ、僕お供する。大丈夫、後ろからついてくだけだから」 「おう、行ってこい」 颯也さんはこっちを向かずに綾宏さんに手を振るだけ。 何?何で? またしても首を傾げる僕にみんな分かっているのか、さっさと行動を初めてしまって、僕は一留に背中を押されて何も分からないまま部屋を出るしかなかった。 |
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