feeling heart to you
38




それから、話を終えて部屋に戻った・・・んだけど、一留の部屋の入り口、仁王立ちで腰に手を当ててる一留とその前で騒ぐ颯也さんと綾宏さんが押し問答してる。

「俺はこれから錬と昼寝するんだ。お前らは観光でも何でもどこでも行って帰ってくるな」
「つれないな。折角着た友人に言う台詞じゃないぞ」
「それに二人っきりになっていいのかな?一留君」
「うっ・・・」

颯也さんも綾宏さんも自分達の部屋があるのにどうしても一留の部屋に入りたいみたい。
僕は先に部屋に入ってそんな3人を眺めながら畳に座り込んでうつらうつらしてる。
何せ昨日の夜はずっと起きてたし朝も早かったし、ばたばたしてたし、何より起き抜けからとても賑やかだったから、ずっと静かな時間に慣れていた貧弱な身体はどうしても疲れが出てる。
元々そんなに頑丈じゃないから、余計にそうなんだと思うんだけど。

「錬?・・・眠そうだな、寝ていいぞ?」

僕の船漕ぎに気付いた一留がさっさと僕をお布団の中に押し入れる。
僕はもう眠くて眠くて一留に促されるままに一留のお布団に入った。
やらなきゃいけない事とか、考える事とか、沢山あるのにどうしても眠たくて眠たくて。



「かわいいね」

それでも熟睡は出来なかったみたい。
確かに眠っているんだって分かるんだけど綾宏さんの声が聞こえてくる。

「ふふん」
「威張るな、ぼけ。だいたいお前はどうして」

一留と颯也さんの声も聞こえてくる。
何を話しているのか良く分からないけれど、僕が寝ているのを気遣ってか、みんなの声は小さい。

「うるさい。いいだろ、俺の事は」
「そう言ってあげられればいいんだけどねぇ」
「突然病院から行方不明だからな。捜索願出されなかっただけ良いと思え。出されてたら国際手配だったぞ」
「颯也、手配は犯罪者だよ」
「似た様なモンだろうが。フランスから日本まで、良く見つからずに逃げたもんだ」
「・・・悪かったな。一人になりたかったんだよ」
「その先でナンパしてちゃ意味無いと思うんだがな」
「まあまあ」
「後でケリつけとけよ。一応俺も動いてはいるが最後は自分で何とかしろ」
「・・・分かってる」

何だろう。もめてるのかな?
一留の声が苦しそう。
話の内容は分からないんだけど、僕の手は自然に伸びて一留を探す。

「大丈夫だよ」

すぐに一留の手が僕の手を掴んでくれた。
ゆっくりと撫でてくれて、嬉しい。

「にしても随分懐かれてるなぁ」
「かーわいいねぇ」
「・・・甘やかしたいんだよ。でろでろに甘やかして笑っててほしいんだ」
「一留?」
「こいつさ、最初の頃、ずっと泣きそうな顔してたんだ。初めて会った時も泣きはらした顔して、こんなちっこい子供が喋れない、手話も出来ない、何をしたらいいのかも分からない、分からない尽くしでたった一人でこんな所に居て・・・それなのに俺の為にわんわん泣いてさ」

一留が指先で僕の目の下に軽く触れてる。
ゆっくりとなぞる動きがくすぐったくて身じろぎすると軽い笑い声が聞こえて、指先があった場所に一留の唇を感じた。

「優しい子なんだよ」
「だな。でもさ、優しすぎるから、少しくらい我が儘になってほしいんだよ」
「そうだな」

声が聞こえる。
優しい声。みんな、とても暖かい声。
一留に握られた手。頭を撫でてくれる手。
みんなとても優しくて、いつの間にか声も聞こえなくなって僕は熟睡してた。



一留の匂いのあるお布団でぐっすり。
緊張感が無いなぁなんて声がして、それでようやく目が覚めた。

「ん・・・」

寝起きは悪くない。
ぱっちりと目を開けると僕の顔を覗き込んでる一留と目が合った。
真っ青な瞳が優しい形に細められてる。

「おはよう、寝ぼすけさん。もう昼過ぎたぞ」

くしゃって前髪を撫でてくれた一留は笑いながらおでこにちゅってキスをしてくれた。

「あっついなぁ」
「ほんっとにめろめろなんだね」

そんな一留の後ろから呆れた声がする。
誰の声だろうってちょっと首を傾げたら一留の後ろからひょっこりと顔が出てきた。

「よーっく、寝れたみたいだな」
「おはよ、錬君」

颯也さんと綾宏さんだ。
2人ともにまにましながら一留の後ろの髪の毛を引っ張って僕から剥がした。

「何すんだよ」
「このまま放っておいたら襲いかかりそうだから」

しれっと颯也さんが笑うと一留はむっとしながらも僕から離れて颯也さんの頭を小突いてる。

何だか僕に接する時と颯也さん綾宏さんに接する時とでは一留の態度が違う。
仲がいいんだなぁ、って思える態度。
・・・いいなぁ。

「どうしたの?まだ眠い?」

ぼけっと寝っ転がったままで一留と颯也さんを見てたら綾宏さんが覗き込んできた。

「眠くない、です。起きま・・・す」

慌てて起き有ると綾宏さんは寝癖になった僕の髪を撫でてくれる。

「そろそろマネージャーさんが来るんじゃないかな?寝癖は直しておこうね」

綺麗な微笑みを僕に向けてくれながら、それでも僕は綾宏さんの後ろで騒いでる一留と颯也さんから目を離せなかった。






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