feeling heart to you
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颯也さんと綾宏さんはどうやら時間がかかるみたいで少しの間待ってたんだけど、遠くから2人の賑やかな声が聞こえてくるだけでこの部屋に来る様子はなかった。

「とりあえず風呂に入って飯にするか。遅くなったけどおばちゃんに言って朝飯食おうな」
「うん」

朝ご飯もまだだった僕は確かにお腹も空いてるし、起き抜けからいろいろあって、まだ混乱してる。
一留もはふ、と小さく欠伸を漏らして立ち上がった。

そのまま手を引かれて温泉に向かえばおばちゃんの威勢の良い声がご飯用意してるからお風呂あがったら真っ直ぐ来いって言ってくれた。

カラカラと引き戸を開けて温泉に入る。毎日の日課。

浴衣を脱いでお風呂に入る。
一留と2人。何を話す訳でも無く2人並んで温泉に浸かる。

朝日が温泉を照らしててとても綺麗。
ゆらゆらとお湯に浸かって僕は隣に並んだ一留の肩にこてんて頭を乗せた。

僕の身体には沢山一留が付けてくれた痕が残ってる。
ちょっとだけ恥ずかしいけど、嬉しい印。
一留が僕に触れてくれたって言う、しるし。
この印があれば一留が僕の身体に居るんじゃないかって思える様な赤い痕。

「・・・馬鹿な事考えてんじゃないぞ」

胸元に残る痕を指先でそっと触れたら一留から思いもがけない声が落ちてきた。
馬鹿な事?

「それは数日経ったら消えちまうんだからな」
「消え、ちゃうの?」
「消えちゃうの。だから俺から離れちゃダメだからな」

・・・一留には何で僕の考えてる事が直ぐに分かっちゃうんだろう。
この痕があれば一留と離れても一緒かなって思ったのに。

「ほら。肩まで浸かれ。茹だったら洗って上がって飯食うぞ」
「ん」

優しい声に促されて、洗い場で一留の背中を洗っていたらようやく荷物を整理し終えたのか、とても賑やかな音と声が露天風呂に響いた。

「うっわ、いい味出してんなぁ、この風呂」
「いいねぇ、温泉の匂いがするー」

颯也さんと綾宏さんの2人だ。
2人とも腰にタオルも巻かないで全裸で堂々としてる。
2人ともとても綺麗な、と言うのはおかしいんだけど、綺麗な身体をしてる。
鍛えられた筋肉。バランスの良い身体付き。
颯也さんはがっしりとしてて、綾宏さんは一留よりも少し細い感じ。
だけど、流石に全裸で堂々と立たれるのは・・・ちょっと恥ずかしいし、目の置き所に困っちゃう。

「何だお前ら、もう入るのかよ」

僕と一緒に振り返った一留が嫌そうに2人を見上げるんだけど、どうしてだか2人は僕をじぃっと見て、それから肩を竦めて溜息なんて落としてる。

「一留、お前・・・」

颯也さんが何処か呆れた声で一留を見る。

「何も言うんじゃねーぞ」

一留はぷい、とそっぽをむくんだけど、ちょっとバツの悪い感じで僕はタオルを持ったまま首を傾げる。

「ど、したの?」
「犯罪者になった気持ちなんだよね〜。一留君は」

一留を囲んで洗い場に腰を下ろした颯也さんと綾宏さんが笑ってる。
一留は拗ねた表情をしてるんだけど、僕には何が何だかわからなくて首を傾げてしまう。

「???」
「錬が気にする事は無いんだよ。ほら、背中流して後ろ向いて。今度は俺の番だぞ」
「俺が流してやろうか?」
「ふざけんな」

・・・何か一留が違う人みたい。
僕に接する時みたいな、こう、何て言うのかな。大人な感じが無くなっちゃってる感じ。
でも、お風呂場でぎゃぁぎゃぁ言い合いながら桶を取り合う一留と颯也さんは何だか楽しそうで、ちょっとだけいいなぁって思った。

「錬君、僕が背中洗ったげる」
「え?」
「だから僕の背中も洗ってね」
「え?え?」

一留は颯也さんから逃げて露天風呂の隅っこまでいっちゃってるし、綾宏さんは僕の背中を勝手に洗ってるし、な、なんだろう、今まで一留と二人っきりだったのが突然4人に増えてとても騒がしい感じ。

あまりにも突然変わった雰囲気に僕はぼけっとしてるだけで全然ついていけない。
そうこうしてるうちに勝手に僕の背中を洗い終わった綾宏さんが今度は僕に背中を向けて洗って洗っていつの間にかタオルを渡されて・・・。

「あ・・・」

僕に背中を向けた綾宏さんは、背中に入れ墨、ううん、タトゥーがあった。
左肩に真っ青な、稲妻のカタチ。
びっくりして思わず声を出した僕に綾宏さんは振り返って笑う。

「いいでしょ、それ。颯也とお揃いなの」
「おそろ、い?」

痛そう、では無いんだけどはっきりと見える稲妻は真っ白な綾宏さんの背中にはとても目立ってる。
一留の背中には大きな傷があってとても驚いたけど、こっちも、びっくりする。

「珍しい?触ってもいいよ」

そんな僕に綾宏さんはとっても綺麗に笑って、後ろを向いたまま手を伸ばして僕の手を取ったんだけど。

「こら!俺の錬に何してるんだよ!」
「綾宏、誘惑するな」

いつの間にか戻ってきてた一留が僕の手を取って、綾宏さんの手は颯也さんが取った。
そうして、また露天風呂はとても賑やかになってしまったんだ。






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