feeling heart to you |
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「来るなって言っただろーが」 「何をつれない事を言う」 小さな和室に大きな男の人が3人と僕が1人。 それは、とても狭い感じで、けれど不思議と圧迫感は感じない。 でも、一留の機嫌はあんまり良くないみたいで、僕は困って一留を見上げる事しかできないでいる。 颯也さんともう一人の男の人が行ってしまってから僕と一留は起きて、そうして、僕はまた一留に新しい浴衣を着せてもらった。 荷物にこっそり入れた浴衣はそのままで、一留は部屋にあった予備の浴衣を着せてくれた。 帯もお腹で蝶々結びにしてくれて、最後にぽんと僕のお腹を叩いて、軽いキスをしてくれた一留はとても優しい微笑みを浮かべて僕をぎゅって抱きしめてくれた。 それが嬉しくて僕も一留に抱きついてから、いつもご飯を食べてる小さな和室に来たんだ。 改めて正面に座ってる颯也さんともう一人のお兄さんを見上げると、目が合った僕に2人ともにっこりと微笑んでくれた。 流石にモデルを、日本でも、いや、世界の中でも一流と呼ばれるモデルさんだった颯也さんの笑顔はすごっく格好良いし、もう一人のお兄さんの笑顔はびっくりするくらいに綺麗で優しい微笑みで、一留とはまた違う格好良さと綺麗さを感じる。 驚く僕に隣に座ってる一留は苦虫を噛んだみたいな顰めっ面で僕を抱き寄せると視線だけで正面の2人を威嚇した。 「ともかく、よけいなちょっかいは出すな」 一留の声がちょっと違う。 いつも僕に話しかけてくれる様な優しい感じじゃなくて、ちょっと拗ねてる感じ。 昨日の峯川さんと対峙した時の声ともまた違う。 「そんなことをいうな。だいたいお前、まだ」 「余計な事は言うな」 颯也さんと睨み合ってる一留。 拗ねた感じの一留の声が途端に厳しくなる。 痛みを耐える声。 冷たいのに、悲しい声。 「いち、る?」 ひょっとして、一留はまだ治療を終えていないんじゃないか。 颯也さんの言葉に前々からほんの少しだけ心に引っかかっていた心配事に気づいてしまった僕に一留は苦笑しながら僕の頭をぽんぽんってした。 どうやら答えてくれる気がない一留に変わって、綺麗な男の人がにっこりと僕を見て微笑みかけてくれる。 一留の雰囲気もまるで無視したその人は綺麗な笑みなのに、迫力がある。 「あのー、僕に紹介してくれないの?ついでに僕の紹介もしてほしいんだけど」 そう言えばまだ僕はこの人達の事を良く知らない。 一留の友達なんだろうけど、自己紹介も何も無いままで向かいあう僕等に一留は冷たい雰囲気を消して仕方がなさそうに僕を引き寄せたまま2人の事を紹介してくれた。 って言っても。 「でかい方が颯也。細いのが綾宏(あやひろ)」 の一言だけで終わらせた一留はもう話は無いとばかりにそっぽを向いてしまう。 困った僕が颯也さんと綾宏さんを見れば2人とも苦笑しながらちゃんと自己紹介してくれた。 颯也さんは僕でも知ってる有名だった人。 一留とはモデルの仕事繋がりで仲良くなったんだって。 綾宏さんは颯也さんの恋人(だってハッキリ言ってくれた)で颯也さんつながりで一留と友達になったって言ってくれた。 勝手に手を出して僕と握手した2人は嫌がる一留の手も勝手に取って握手すると、いそいそと部屋を出ていった。 荷物があるから片づけてまた来るって言い残して。 何だか嵐が去ったみたいな感じでぼけっとしてる僕に一留は小さく溜息を落として苦笑した。 「悪かったな。煩いのがきちまって」 一応来るなとは言ったんだけどな、なんて言いながら今度は大袈裟に溜息を落とした一留は疲れたぞと言わんばかりに畳に大の字で寝っ転がる。 「疲れた・・・」 ぐったりとしてる一留はそれでも僕を離さない。 僕の浴衣の裾を持ったままぼけっと天井を見てる。 「だいじょう、ぶ?」 確かに嵐みたいな人達だったけど、きっと一留を心配してたんだと思うよって、一留のおでこを撫でれば一留はくすぐったそうに首を振って僕の手を捕まえる。 「今回の事に関してはあんま強く言えないからな」 仕方がなさそうに呟いた一留は僕の手を掴んだまま起きあがって、いつもの暖かい笑みを見せた。 「さて。俺の事は終わり。これからは錬の事」 そうだ。一留の事も心配だけど、僕の方が時間が無いんだ。 また峯川さんが来る。僕は答えを出さなきゃいけない。 一留の側から離れられなかった僕は違う答えを出さなきゃいけないんだ。 「一応彼奴らにも相談してみような。人数が多い方がいいだろ?」 「・・・うん」 相談。して良い答えが出るのかな。 心配してくれてる一留には悪いけど、結局は僕の事。僕個人の事。 そして・・・。 「いっぱい考えような。もう先走るんじゃないぞ」 「ん・・・ご、めんね」 軽く僕の頬にキスしてくれる一留に僕は嬉しくて微笑み返す。 でも、僕の事は、僕の考えは・・・。 |
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