feeling heart to you
22




一留に手を引かれて街へ出る。
それも毎日の日課だけれども、やっぱり今日は大変な騒ぎだった。

甘味屋さん。
岩牡蠣のお店。
お土産屋さん。
街行く人達。

いつの間にか僕と一留は街の有名人になっていたから僕の声が出ない事もみんな知っていて、口に出しては言われなかったけれど、仕草や態度、そして視線がとても心配してくれていたんだ。

だから、声の出る様になった僕にみんなとても喜んでくれて、両手を広げて抱きついてきたり、頭を撫でてくれたり、にっこりと笑ってくれたり、何処か不器用に一言だけ良かったなって言ってくれたり。
本当に、本当にみんな喜んでくれた。ただ、純粋に喜んでくれた。

一留も一緒になって喜んでいて、僕はそのたんびに照れちゃうんだけど、こんなに喜んで貰えるだなんて思ってもみなかったから、すごく嬉しくなっちゃって、最後の方では一留に笑われながらほんの少し泣いちゃったんだ。

一留に手を引かれて歩く街。
小さな街。

けれど、とても暖かい街。

真っ白い生地に旅館の文字の浴衣で僕と一留は街を歩く。
手を繋いで、微笑み会って。
ずっと、ずっと、ずぅっと、変わらない毎日を過ごすかの様に歩いてる。

みんな僕と一留を見て微笑んでくれる。
顔を見かければ声を掛けてくれて勝手に椅子を勧めてお喋りしたり、何処から出してきたのかお茶とお漬け物で世間話に花を咲かせたり。

今まで僕はじっと一留とみんなの話を聞いて笑ったり頷いたりしてるだけだったけれど、今日から僕もほんのちょっとだけ世間話に参加出来て。

「弟クンはどれが好きなんだい?」
「ん、と・・・これ、こ・・・きい、ろの」
「ああ、タクアンだよな。これ」
「なんだい、弟クンは沢庵だったんだね。いっつもにこにこしながら全部手つけてるから分からなかったよ」

店先に即席の椅子と段ボールをひっくり返したテーブルでおばちゃんにお茶とお漬け物を貰う。
僕は何でも食べるけど、本当は黄色い色の、ちょっと甘いのが好きなんだよって初めて伝える事が出来て嬉しいし、それを聞く事が出来た一留とおばちゃんも嬉しそうに笑ってる。

そうして。
毎日の終わりに必ず僕と一留は海に来る。

もう日課になっていて毎日海の側に行かないと落ち着かないくらいに僕と一留は毎日海に行く。
たまに朝から海に行ったり昼に行ったりもするけれど、一日の終わり、夕暮れには必ず海に足を運ぶんだ。

水平線に沈む太陽を眺めながら岩に腰掛けた一留に後ろから抱えられて僕は一留の温度を感じながらじっと海を見てる。
今までは何も喋る事無くただ海を眺めていただけだけど、今日からは僕の声が出る様になってるから何か喋るのかなって思うけれど、一留は何も喋ろうとせずにただ僕の頭を撫でてくれたり肩を撫でてくれたりしてるだけ。
何も喋らないのかなって一留を見上げれば一留は微笑みながら僕に軽いキスを落としてきた。

「どした?」

ちょっと首を傾げて囁いてくる一留に僕も首を傾げる。

「おしゃ、べ・・しな、の?」

おしゃべりしないの?って。

「いいんだよ。せっかくのシチュエーションなんだから黙っていちゃいちゃするの」

・・・いちゃいちゃ?

「それに今日は沢山喋って疲れてるだろ?さっきから目が虚ろだぞ」

笑いながら僕の頬を撫でてくれる一留はそのまま何度もキスをしてきて、くすぐったい。

「こーら。笑うな。こーゆー時は恥ずかしそうに頬を染めるもんだぞ」

そんな事言っても一留も笑ってるから僕もどうしても可笑しくて声を上げて笑っちゃった。

「ったく。そんな可笑しそうに笑うなよ。一応真剣にいちゃついてるんだぞ?これでも」

真剣にって言いながら一留はパチンとウインクして何処か意地悪そうな笑みを浮かべる。
どうして真剣なの?って口を開こうとしたら一留は僕の口を指先で押さえてまたキスをくれる。
何度も何度も一留とはキスをしてる。
触れるだけのキスも、もっと深いキスも。
最初はびっくりしたけど、今では一留がしてくれるキスがとても好きになってる。
どのキスもとても優しくて、そして、一留を直接感じられるから、好き。

「・・ん」

僕の口の中を一留の舌がぐるりと動いて僕の舌を絡め取る。
くちゅって音がして訳も分からず恥ずかしくなるけれど、一留は離してくれないから僕はじっとしてる。
何度も何度も息継ぎをしながらキスを繰り返して、僕の心臓はだんだん早くなっていく。

「錬、好きだよ。とても、好きだよ」

そうして、一留はいつも僕に好きだって言ってくれる。だから

「ん・・・ぼく、も・・・すき」

一留の事が好き。とても好き。

ちょっとだけ目を開けて一留を盗み見たらやっぱり一留は綺麗で、優しい表情で。
だんだん暗くなってくる明かりの中で、不思議な色の光が僕と一留を包み込んでるみたいだった。
それはとても優しい色に思えて、訳も分からず僕はきっと、一生この色を忘れないんだろうなって思った。







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