feeling heart to you |
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声が、出た。僕の、声が出た。 「ど・・・し・・」 どうして? 「錬、おまっ」 一留もびっくりしてる。 そりゃ、当たり前だよね。だって今まで僕は全然喋れなかった、ううん、声が出なかったんだから。 「い、ち・・・る」 もう一度、とっくに忘れちゃったと思った声の出し方。 でも、それは自然に出来て、何にも考えなくても、やっぱり僕の声は出て。 「錬、声、戻ったんだな」 しっかり僕の声が届いたのか、一留がすごくすごく嬉しそうに微笑んでくれてる。 僕はまだ信じられなくて、声の出た口に手を当てちゃったんだけど、一留は僕の手をそっと取って、取った僕の指先に唇を押しつけた。 「錬、何か言ってみてくれ」 指先がくすぐったくて一留から離れようとするのに一留は僕の手をぎゅっと握ってて離してくれない。 「は・・・し、て」 困って、離してって言ってるつもりだけど、僕の喉から出るのは情けない掠れた小さな声だけ。 それでも声が出るだけ驚きなんだろうけど、僕は困って一留を見上げる。 「どした?」 困ってるのに一留は僕を見てにこにこしてる。 恥ずかしいから離してよって言ってるのに、離してくれない一留に僕はじっと一留を睨んでみる。 「あはは。ごめんごめん。つい嬉しくって」 一生懸命睨んだらようやく分かってくれたのかな? 一留はそれでも笑いながら僕の手を離してくれて、でも、そのまま抱きしめられた。 ぎゅっと。とても強く抱きしめられた。 「錬、好きだよ」 そうして、ゆっくりとした口調で僕の耳に囁いてくるんだ。 途端に僕は恥ずかしくなって、でも、嬉しくて。 一留の背中にぎゅっと手を回したんだけど。 「錬は?俺の事、好き?」 今までだったら絶対に聞いてこないのに、聞いてきた。 前と今とで違うのは、僕の声が出る事。 だから・・・。 「す、き・・・だよ」 囁く声よりも小さな小さな僕の声。 でも、きっと一留は返事を聞きたかったんだろうなって思ったから僕は小さな声だけど必死に声を出してみた。 そうしたら一留は聞き取ってくれたみたいでぎゅぅっと、僕の事を抱きしめてくれた。 僕も一留の事をぎゅうって抱きしめる。 だって、ずっと言いたかったんだ。 一留に、ありがとって。 僕なんか構ってくれてありがとって。 抱きしめてくれてありがとって。 好きになってくれて、ありがとうって。 ずっと、ずっと言いたかったんだ。 僕も一留の事が好きだよって。 ずっとずっと、言いたかったんだ。 だから僕は力を込めて一留に告げたい。 ちゃんと、言葉で、声で告げたい。 「一留、の・・・こ、と。す、好き、だよ」 どうして僕の声が突然出る様になったかなんて全然分からないけど、僕はありったけの力をお腹に、喉に込めて声を出した。 さっきよりはだいぶマシな声が出て、ちゃんと一留の事が好きだって言えてほっと安心したら、一留は僕を抱きしめたまま小さく肩を震わせた。 一留? どうしたの? びっくりして一留の顔を見ようと思って一留から離れようとするんだけど、一留の力が強くて離れられない。 「どし、たの?」 一留の背中をぽんぽんって叩くのに一留は返事してくれない。 何だろう? どうしたんだろう? 僕はだんだん心配になってくる。 だって、一留から、本当に本当に小さなしゃくり上げる音が聞こえちゃったんだ。 一留、泣いてるの? 何で? 僕は分からない事ばっかりで一留の背中を叩く事しか出来ないでいる。 何でなんだろう。どうして一留が泣いちゃうんだろう。 分からないばっかりで、でも一留が離してくれなくて僕は一留の背中を叩いたりさすったりしか出来ないでいたら一留がゆっくりと僕を抱きしめてる力を抜いてくれた。 ゆっくりと一留の顔が上がって、真っ青な瞳が僕を見下ろしてくる。 「良かった。声、出るんだな。出る様になったんだな」 掠れた一留の声。 くしゃくしゃになって微笑んでる、痛い位に優しい笑顔。 一留は僕を見つめて、微笑んで、ゆっくりと僕の唇に触れるだけのキスをしてくれた。 「いち、る?」 でも僕は一留の言葉が引っかかって単純には喜べなかった。 だって、一留の言葉をそのままの意味で受け取ったら、一留は僕の声が前は出てたんだって、ちゃんと、普通に話せたんだって知ってるみたいだったから。 一留は、僕は此処に来てすぐの頃、僕の事なんて知らないみたいだったのに、今の一留の言葉だと・・・。 僕が変な顔をしてたんだろう。 一留はくしゃくしゃに微笑んだまま、もう一度僕にキスをして、また抱きしめた。 今度はちゃんと顔が見える様に一留の腕は柔らかく僕の背中に回されてる。 「ごめん。ホントは知ってたんだよ。錬の事。って言っても最初は本当に分かんなかったんだけど、ごめんな。ホントは知ってた」 |
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